母親NTRは厳密に言えばNTRではない

何故俺がこんなわけわからんくらいに悪い態度を取ったのか、それには浅い理由がある。


理由は単純、俺は知り合いを作りたくないのだ。


俺の人間運は類稀に見る程に悪く、これまで関わってきたほぼ全ての人間が地雷だった。


ケースONE、小学校の元友達。


そう、あれは俺が小学校五年の頃…暑い夏の日。

当時の俺はここまで擦れた人間ではなく、平凡な少年だった。


虫取り網をこさえそこら辺にいる蝶々や蝉を捕まえてたし、カブトムシとクワガタでバトルさせてたし、カナブンは愛でていたし、トンボの尻に糸を引っ掛けて散歩させてたし、スズメバチを発見したら網で捕まえて水浸しにし、その後踏んづけたし、蜂の巣を見つけたら撲滅するまで蜂を殺しまくっていた。


そんな可愛らしい小学校時代の俺ちゃんだったが、その当時は交流関係も深く、学校には様々な友達がいた。

今ではその誰とも連絡を取ったりしないが、当時は楽しく過ごせていたと思う。


よく笑い、よく遊び、世間一般のイメージにおける子供としての役割を真っ当していた。

…そう、あの日までは。


あの日、とは俺のターニングポイント、全てが始まった日だ。


当時の俺は家族が好きだった。今はもう関わりたくないと思っているが、それでも昔は人並みの愛情はあった筈だ。

それがなくなった原因がその元友人だ。


その元友人とは俗に言うお隣さんという関係であり、幼稚園も小学校も同じだった。


そいつは小さい頃からよく俺の家に遊びに来ていて、ゲームなり何なりをしながら楽しく遊んでいたと思う。

違和感を感じたのは小学校一年の時だ。


俺がそいつと他の友達と遊んでいると、そいつが急に何処かに消えるのだ。

一度や二度ならず、俺の家に遊びに来ていた時はいつもそうだった。


当時の俺はそのことを不思議に思いながらも、そいつがいないことでゲームの番が俺によく回ってきていたので特に気にしていなかった。


所変わって俺には母親がいる。

自分の親ながらナイスバディで年齢より若く見られる。雰囲気はほわわんとしていて、人に強く頼まれたら断れない性格の人だった。


そしてそいつがいなくなると同時に母の姿も消えていた。呼んでも全然返事を返さないのだ。

偶に返事をすると思ったら変にぐぐもった声を出していた。その後、妙に息遣いを荒くして汗びっしょりの姿で現れる。


その時まではまだ疑念だった。シュレディンガーのなんやらという奴、まだ可能性は50/50だった。


で、決定的な証拠を見てしまったのがその小五の夏って訳だ。


俺は見てしまったのだ。俺の母親がそいつと交尾している瞬間を。

その時には下ネタやら学校の友人経由で行為がどんなものなのかわかっていた。


だから自分の母親がそいつと交尾しているのを見て戦々恐々とした。


想像してみてくれ、自分の母親が同い年の友人とセックスしてるんだぜ? 怖い以外に感情が湧かない。

なんだろう…目の前の母親という生物が自分の親なのかという自信がなくなってしまったのだ。これを価値観が崩れるという。


それ以来俺は母親との関係がぎこちなくなった。俺がその場面を見たということは母親にはバレてない。

けど、一つだけ文句を言わせてもらうのなら…なんで俺の部屋でセックスしてたんですかねぇ…? 床のシミ落とすのちょー大変だったんですけど。しかも部屋が満遍なく臭いし…。

あの時は涙を流しながら作業をしていたな…。


ちなみに、俺には歳の離れた妹がいる。

六歳年下なんだが、そいつは俺と全く顔が似ていない。

どことなくその元友人と母親の面影があるその妹の名前は名取愛菜、多分俺と半分しか血が繋がっていない妹である。

ちなみに親父はそのことを多分知らない。というか俺の親父はあまり家に帰ってこないのだ。


なにせ趣味が立ちん坊JKと援交することなんだからな、ははは。家に帰る暇なんてないんだぜー。

……俺の親、ロクデモない奴しかいねぇ…実の両親がロリコンとショタコンだった俺は泣いてもいいと思うんだが? たははぁ(泣)


他にも様々な例があるが、一先ずはここで終わらせておこう。ちなみにちょっとしたネタバレを言うと、俺には一つ上の姉と、一つ下の妹がいるが、そいつらもほんとにしょうもないことになっている。

そいつらから離れる為に県外の高校を受験したのだ。どうしても一人暮らしがしたくてな。


総括として、その後もこれからも俺は散々ヤバいやつと知り合っていく。だから懲りたのだ。

関わる人間全てがめんどい奴なのだからこれからはもう誰とも関わらない…となるのは普通なのではなかろうか。


だからこんなイキリヤンキームーブをしたわけなんですねー。

これ、人生幸福RTAで必要な要素ね? 無駄な知り合いを作らないことでのタイム短縮を計ったのだ。


その結果、入学して一週間も経つと俺に話しかける奴は皆無となる。目論見通りに進んでホクホクとした気分だ。


お陰で学校生活がとても快適に過ごせている。…ある一点を除いては…。



「名取? いつまでそんなイキリムーブに酔ってるの? もう少し協調性を培ったらどう?」


「あん?」


この学校で唯一俺に話しかける存在がいる。教師ですら滅多なことでは話しかけようとしないのに…。


「学校という場はこの後にある社会生活の演習なのよ? それなのにそんな変な厨二病を拗らせて…貴方大丈夫?」


「相変わらず辛辣だなぁ、いいんちょ」


いいんちょ、呼び名の通り俺の所属している一年一組のクラス委員長だ。


正式な名前は渡伊代、黒髪ロングでクールな印象を受ける女性だ。


「君が問題児だと同じクラスで、しかもクラス委員長である私の評価が下がるんだけど、とても迷惑なのだけど」


「うっせぇなぁ…! 別に大した問題起こしてねぇんだからいいだろ。ほっとけや」


「私はこれからの話をしているの、そんなこともわからないの? 考え足らず?」


この通りありえんぐらいに俺に当たりが強い…が、俺はこいつがとてもいい奴なことを知っている。


困っている奴がいたら見過ごさないし、問題が起きたらお節介と言われようとも一緒に解決しようとする。

多分俺に突っかかるのも俺がクラスから孤立するのを阻止しようとしてくれているのだろう。


俺はこういういい奴は結構好きだ。お節介ではあるが心根の良さを感じてほっこりする。


「うっせ、耳障りだ。消えろ」


だけど先程の考えもあって当たりキツく言ってみる。いやぁ申し訳ないなぁ。


「消えろ? もうすぐ授業が始まる直前に何を言ってるの? 頭悪い?」


頭悪いは流石に言い過ぎだろう。これでも勉強はしっかりやってる方だぞ。

しかしそれを証明する方法はない…残念ながら学力テストは当分先である。


「……チッ!」


なのでここは戦略的撤退。口で勝てない時は逃げるが勝ちだ。


バッ…! と、椅子をわざとらしく音を鳴らして立ち上がり教室からズカズカと出ていく。


「あ、ちょっ…!」


話し合いは相手の土俵に入らなければ成立しない。ふふふ、人生で上手くやり過ごす為に覚えた小技の一つよ!


あーばよっと廊下に出る。それを追ってくる者は一人しかいなかった。

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