4-2

 王都の広場の中心に構えた壇上で、メテオ隊長は国民を一人一人問い詰めていた。壇に上げ、詰問し、知ろうが知るまい難癖を付けて暴虐な仕打ちを与えた。骨が折れた者や、歯が抜けた者、意識を失った者、死んでしまった者もいた。国民は反旗を起こしたかったが、武装した駆除隊が何人も構えていたので、ただ怯えて自分の番が回って来ないよう祈るだけであった。

「メテオよ、馬鹿な真似はいい加減やめろ」

 ファビュラスは声を張り上げた。皆がその声の元に視線を向けると、そこは壇上のメテオ隊長の背後であった。その壇は王を座らせるために無駄に豪華にしており、その装飾に隠れられたので気配を気付かれないまま近づける道のりはいくらでもあったのだ。

「よくここまで来れたものだな」

「貴方が隙だらけだったから、簡単に近づけましたよ」

「そうではない、あれほどの力の差を見せたのに、という意味だ」

「分かっています、わざと外しました」

「あのまま逃げていれば生きながらえたものを」

 ファビュラスは国民の方を見た。

「皆も薄々気づいていると思うが、この国境警備兼特定生物駆除隊長メテオは、自分の手にした権力にかこつけて、愚かにも皆を苦しめているだけだ。そしてこのような愚か者に権力を与えた王はもっと愚かだ。我が軍よ、今こそ真の意味で国を守る時だ。剣を構えろ!」

 広場に来ていたジャックは、何もできない無力な自分を恥じていた。しかしファビュラスのその言葉によって目を醒ました。自分は国を守る仕事をしている。今、国は暴力によって平和を乱されている。最初にジャックが立ち上がった。「剣を構えろ!」そして駆除隊の者に掛かっていった。すると、それに合わせて他の警備軍も蜂起した。広場全体で、乱戦が始まった。剣と剣がぶつかる鋭い金属音が広場で鳴り始めた。剣を携えていなかった警備軍の者は、転がっている長物を使って応戦した。素手で戦う者もいた。

「さて、僕も仕事に取り掛からないと」

 壇上のファビュラスは、剣を抜いた。

「お遊びには付き合ってられんな」

 同じく、メテオも剣を抜いた。そして無造作に近付いて、ファビュラスに刃を振り下ろした。なんの工夫もない剣筋だったが恐ろしい速さだった。体を回してこれを躱すと、その勢いのままメテオの腹に突き刺そうとした。射程距離をすでに見極めていたメテオは、少し後ろに飛んでちょうど届かない位置まで離れた。王は二人の戦いを眺めているだけだった。そこからは二人の剣が何度も何度も激しくぶつかり合った。ファビュラスの攻撃の手の方が速いため、メテオは常に剣を受け止める形になっていた。傷も痛むが、このまま押し切ろうと考えていた。しかし程なくして彼はそれが難しい事だと気がついた。メテオは、全く後ろに下がっていなかったのだ。それどころか左右にも動いていない。つまりそれは、ファビュラスの剣を、腕の動きだけで去なしているのだ。この戦いにおいてどちらに余裕があるのか、それは明らかだった。ファビュラスは、メテオは直感的に、このままでは負ける理解した。ならばこそ、油断してくれている今のうちに決定的な一撃を与える。それしか策はない。そう考えてから四度ほど剣がぶつかった後、最も力を込められる頭上の位置に剣を構え、両腕で力一杯振り下ろした。メテオはこれを受け止めようとした。その動作が見えたファビュラスは、そのまま叩き折るつもりで力と気持ちを込めた。剣と剣が触れた瞬間、メテオはそれを斜めにして受け流した。ファビュラスは壇の床に傷をつけただけになり、完全に体の動きが停止した。すぐに次の動作に入れない体勢だった。メテオは再び、無造作に剣を振り下ろした。ファビュラスは必死になって後ろに飛んだ。刃が唇と顎先を掠めた。彼はすでにメテオを討つ想像ができなかった。それでも諦める訳にはいかず、立ち向かおうとした。しかし、昨日の傷が痛んで踏ん張りが効かなかった。その隙は二人の実力差において決定機となるには充分だった。メテオは一歩前に踏み出して、今度は脳天から叩き切る軌道となるように振り上げた。ファビュラスは自分の敗北を受け入れ、その呆気なさに少し笑ってしまった。

「やめて!」

 メテオは背後からの声により動きを止めた。壇上に、ルーナが立っていた。メテオは初めてルーナを見た。

「やっと君に会えたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る