3-8
「これからどうしよう」
追われているのは、彼ら二人ではなく、彼女だけだ。この場において本当の意味で悩んでいたのは、彼女だけかもしれない。それでもファビュラスは声をかけるしかなかった。
「大丈夫、なんとかなるよ」
「何が大丈夫なの。私、自分の生まれた街に入れなくなっちゃったのよ」
「そうだけど、これからもずっとそうとは限らないだろ」
「友達にも、お母様にも会えなくなっちゃった」
「それは確かに、辛いな」
沈黙が続いた後に、ウィードが質問した。「君は、一体何をしたんだ。そもそも何故指名手配されているんだ」「そうね、話さないとね」ルーナは自分の事について説明してくれた。二人はそこでやっと、ルーナが王の一人娘である事を知った。そして王が他国を攻め入ろうとしている事、国境の駆除隊は活動しすぎである事、王とルーナはお互い嫌っている事。
「お父様は、個人的に私を苦しめるためにやっているんだと思う」
「じゃあ、王が態度を改めるしかないのか」
「あんな頑固で愚かな父が、自分の過ちに気が付くはずないわ。だったら、実行役のあの人を止めて。あなた、あの人の部下なんでしょ」
ルーナは、ウィードをじっと見つめた。彼は、自分がどうすれば良いかとても迷っていた。それを察したファビュラスは、助け船となる様な事を言ってくれた。
「それは酷な話だよ、あの人の部下だからこそ意見を言うのは難しい。そういうものさ」
「いつお母様にも危害が及ぶか」ルーナは、少し涙を浮かべているようにも見えた。
結局結論が出ないまま、ウィードは外に出た。議論から逃げるつもりはなかったが、一旦現状から目を背けたくなったのだ。彼はその自分の心の機微を理解していた。
王都では、人が全く出歩いていなかった。ルーナの手配書が一定の間隔で貼られていたが、見る人がいないので無意味なものに成り下がっていた。家が立ち並ぶ通りは、何軒か荒らされているところがあった。扉が壊され、窓が割られ、中を覗いてみると、家具は壊され、モノが散らかっていた。その家の住人が、片付けをしていた。一瞬だけ目が合ったので顔を逸らした。他にも、火をつけられたであろう家もあった。店が並ぶところまで出た。そこでやっと、街を歩く人を見かけられるようになった。皆、声をかけられないように伏目がちに歩いている。昨日の出来事でルーナが王都にいると間違った確信をしてしまい、メテオ隊長がこれまでより無茶な捜索をするようになったのだ。
開いている店は、半分もなかった。少し歩き回って、卵とパンと果物を買った。それと、薬と包帯も増やしておくために再び街を歩こうとした時、広場の方から声が聞こえた。そこに行くと、人がたくさん集まっていた。皆家にこもっていたのではなく、ここにいたのだ。どうやら無理矢理集められたらしく、乗り気な者が誰一人いなかった。広場の中央の台にはメテオ隊長と王が立っていた。
「これは、何が始まるんですか」
ウィードは近くの人に話しかけた。
「分かりません。ただ重要な話がある、としか」
「静粛に!」メテオ隊長が声を張り上げた。人々はそれに従い、そして中央に注目した。
「残念な事に、今手配中のこの女ルーナと、我が国の王妃ナナは共謀していると分かった。二人して国家の転覆を図っていたのだ。こうなると、ますます急いでルーナを捕える必要がある。どんな些細な情報でも良い、我々に話してくれたまへ。また、ルーナよ。もしこの話を聞いているならば、これだけは言っておこう。王妃ナナの扱いは、君の出方次第であるぞ」
ウィードから見ても、メテオ隊長の様子は明らかにおかしかった。本来ならもっと理詰めで考え、ルーナが何をやらかしたのかを調べてから行動に移しているはずだ。こんな訳のわからない仕事に躍起になる人ではない。ウィードは急いで自分の家に戻った。そして広場で見聞きした内容を二人に話した。
「ルーナ、王妃が人質に取られている」
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