3-7
「ありがとう、助かったよ」ファビュラスは寝転んだまま発した。
「喋って大丈夫なのか」
「致命傷ではないんだ、きちんと手当すれば問題ない」
しばらくして、ルーナが茂みから出てきた。
「ファビュラス、大丈夫なの」
「ああ、大丈夫だ。それよりも」
彼が何か言いかけたのだが、ルーナは彼の手を握った。
「貴方がやられた時、どうしようと思ったの。私のせいで誰かが亡くなってしまうなんて耐えられないから。だから、よかった」
「心配かけたな」
ファビュラスは続きを話すのはやめにした。彼が一命を取り留めたのはよかったのだが、ここに居続ける訳にはいかない。メテオ隊長が指示した見張りがいつやって来るか若ならない。ウィードはここを離れるように提案した。
「でも、どこに行けば」
「僕の家は王都の中だ。迂闊に彼女を入れる訳にはいかない」
「私の家は当然危険だし」
二人はウィードのほうを見た。「それが一番か」彼は状況を察した。
「確かに、俺の家は王都の外だからな」
ウィードはファビュラスを、お姫様抱っこした。
「すごいな、装備もあるし僕をこんなに軽々持ち上げるとは」
「重いとは思っているよ。ルーナ、ファビュラスの剣を持ってくれないか」
彼女が拾うのを待ってから、自分の家に歩き出した。
「なんで僕を助けてくれたんだ」
「理由なんてない。ただ、お前が殺される必要は無いと思っただけだ」
「だからって、匿ってくれるなんて。僕たちとしてはありがたいけども」
「それは単に彼女が…彼女も困っていた。そういう人を助けてあげたい、純粋な善意だ」
「君は、素晴らしい男だな」
ファビュラスはそれ以上ウィードに話しかけなかった。
家に着くとルーナに、ベッドの上に布を広げてもらった。ウィードはそこにファビュラスを寝かせ、上着を脱がせた。胸の傷から血は出ていたが、骨が見えるほどの深さではなかった。この程度であれば自分でも処置できる、そう判断した。綺麗な水を用意して、傷口を入念に洗い流した。少し水分を拭き取ると、今度は酒を傷にかけた。傷口に染みたらしく、ファビュラスは苦悶の声をあげた。
「さて、ここからが問題だぞ」
ファビュラスは何かを察したらしかった。「いいぜ、やってくれ」「わかった」ウィードは針を熱した。そして針と縫合糸を用いて、傷口を縫っていった。今度は声をあげなかった。息を詰まらせて、脂汗をかくばかりであった。
「ねえ、こんなに痛そうにしてるんだよ、他に方法はないの」
ルーナは、直接そうは言わなかったが、治療を止めさせようとしていた。
「いいんだ、この方法しかない」
詰まった息を絞り出す様な声だった。ウィードは綺麗に、均一に、縫合していった。最後まで終えると、糸を結んだ。
「これで大丈夫だ。悪いな、麻酔の用意がなくて」
「いやいいんだ。すぐに綺麗に閉じてしまった方がいいに決まってる」
ファビュラスは感心していた、この怪我を対処する技術とその冷静な判断力に。
「どこでこんな技術を習ったんだ」
「俺の隊は治療をすぐに受けられない事が大半だからな。だから、訓練の時にここまでの応急処置を習うんだよ」
「だが習った程度で身に付く手つきではなかったぞ」
「同じ隊の仲間の手当をした事もあるし、自分の脇腹を自分で縫った事もある。部屋の中でこれだけ準備があるんだ、だったらこれくらいはやってのけるさ」
「…部屋も、少し汚してしまった」
「構わねえよ」
「ありがとう」
ファビュラスはそのまま寝てしまった。ルーナはソファで横になり、彼女も寝た。ウィードは二人に、冬用のローブをかけてそれを布団の代わりにした。彼は、床に座り込んで二人を見守った。何も起こらないに決まっているので、しばらくしたら意識を失った。
翌朝目が覚めると、三人とも腹が減っていた。最後に目を覚ましたのは、ルーナだった。家には、3人分の食事がなかったので王都まで買い出しに行っていた。そこでウィードは今朝話した内容を思い返していた。
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