3-5

 メテオ隊長は隊を二つに分けていた。いつもの通り国境の魔物の駆除にあたる者たちと、彼女を探す仕事をする者たち。ウィードは後者に割り振られ、メテオ隊長もこちらに取り組んだ。とりあえず今日は手配書を張って回る。ウィードは、出来ればこんな事はやりたく無かった。しかし命令には逆らえない。黙々と仕事を進めるしか無かった。明日からは本格的な捜索が始まる、出来れば明日が来て欲しくない、そんなふうに考えていた。そこに一人の男が話しかけてきた。

「この人、何かしたのかい」

「なんでも、国に対して害をなす研究をしているらしいですよ」

「そんなふうには見えないんだけどな」

「俺もそう思います」


 メテオ隊長は、狂ったように女を探し始めた。飯屋に押し入って許可もなく店の中を歩き回り、クロスで覆われたテーブルがあればわざわざそれをめくり、そのせいで料理をひっくり返したりもした。慌てて店員がやってくると「王の命令だ、この女を探している」そう言い張って彼らの制止を気にも留めなかった。さらに厨房も見せろと奥に押し入り、あちこち漁った。また、街行く人に適当に声をかけ、写真を見せて反応を伺っていた。少しでも怪しいと感じると尋問にかけようとした。ウィードからすると、急な問いかけにただ驚いているだけか、他にほんの少しだけやましい何かを抱えているのだろうと思えた。なので隊長を上手く諫めるのに必死に努めた。そんな日々が続いた。

 誰も国境を捜索しようとは考えていなかったので、彼女を見つける手がかりも何も無かった。全く進展が無かったのだ。なのでウィードは、しばらくは問題はないだろうと考えていた。しかし違った、問題はそこではなく、あることに気づいた。彼女は自分が捜索の対象であると気づいているのだろうか。もし何も知らずに王都にやってきて、捕まってしまうのではないか。であれば彼女に警告しに行かなければならない。幸い翌日は、捜索から外れて休む日であった。

 予定通りウィードは彼女の家に向かった。彼は何も考えていなかった。家にいないのではないかとか、その他諸々の可能性をだ。憶えている道を進んでいった。なのでまずは研究所に向かった。一人鍛錬していた場所から彼女を見かけたおおよその場所を思い出し、逃げた方向を思い出し、順を追って記憶を辿っていった。道のりに自信が持てない瞬間もあったが、周りを見渡してあの日切った草木を見つけ、再び確信を持ったりしていた。遂には彼女の研究所を見つけられた。そこに、後ろから声が聞こえた。

「なるほどここが女の家か」

 そこにはメテオ隊長と何人かの隊員がいた。自分が尾けられていたのだ。

「どうして俺がここを知っていると分かったんですか」

「さっきまで分からなかったが、今分かったよ」

 ウィードは、あからさまに不味いことを言ってしまったという顔をした。

「正直、この命令が下ったあの日からお前の様子がおかしいのは気づいていたんだ。何か知っているのではないか、という疑念がほんの少しあっただけなのだが。しかしここまで重要な情報とは思いもしなかった」

 メテオ隊長はずかずかと近づいてきた。今から研究所の中を、箱をひっくり返すように探すつもりだろう。さっきまでは彼女が中に居ればと期待していたのに、今では彼女が居ない方に期待していた。

「あの、部屋を荒らしてしまうのは得策では無いかと思われます。もし女が中にいなかった場合、誰かが女を探していると気付かれてしまいます。もし居ないのであれば探した痕跡を消し、近くで見張り、帰ってくる時を狙った方が良いのではないでしょうか」

 彼女が中に居た場合、なんの意味もない提案であるが、今はもう居ない方に賭けるしかなかった。一人を外に残し、メテオ隊長と二人の隊員が中に入っていった。扉には鍵そのものがなく、壊す必要もなかった。

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