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王は、二人を呼び出しておきながら、特に待ち侘びた様子ではなかった。扉が開いてこちらを一瞥すると、すぐに手元にある紙か何かを再び見つめ、ため息をついた。王も二人が部屋に入っているのは気がついているが、名乗ることで自らの存在を示した。
「召喚状により参りました、国境警備兼特定生物駆除隊長メテオです」
「第一班副班長ウィードです」
王は、暫く手元を見たままだった。王室内に沈黙の気まずさが行き渡った頃、そこでやっと口を開いた。「よく来てくれた」そう言いながらも、できれば来てほしくなかったかのようだった。
「王、召喚状には一切の詳細は記載されておりませんでしたが、我々をお呼びになった理由を教えていただけますでしょうか」
二人は王の様子を感じ取っていたのだが、何故呼ばれたのか問わない訳にはいかなかった。王は仕方が無いと言わんばかりに、ゆっくりと立ち上がった。そして一枚の写真を渡してきた。
「この者を捕らえてほしい」
写っていたのは、少し前にウィードが知り合ったばかりの女性、ルーナだった。目と肌の澄み具合は写真でも分かる程だった。ウィードはこれを見た直後、どうするべきか、どう振る舞うべきか、考えた。ウィードが今置かれている立場、人間関係、遂行すべき業務、様々な要素を判断した結果、彼は黙り込んだ。いや傍目には黙ったとすら思われなかっただろう。メテオ隊長も写真を見ていて、何も喋らなかったからだ。二人はこれから追う女性の顔を一生懸命憶えようとしている、そういう状況だった。しかしメテオ隊長は違った。憶えるどころか、心に刻み込まれてしまったのだ。
「王、この女を追うためにも、この写真を持っておいてもよろしいでしょうか」
「ああ構わない」と短く答えた。メテオ隊長は写真をじっと眺めていた。ウィードは不安に思っていた、もしかしたら隊長も森の中で彼女を見かけていたのかもしれない。だとすれば駆除隊を動員し簡単に見つけ出してしまうだろう。しかし当の本人は、そんな事を考えていなかった。なんと美しい女性だろうか、これほど可憐な女性は見たことがない、美しいばかりではない、俺の地位に釣られて寄ってくる浅はかな者たちと違って、明確に強い意志を持った目をしている。きっと聡明で溌剌な女性なのだろう。と、いうことばかりを考えていた。
「この者を捕らえた後、どうするおつもりですか」
「捕らえたならば、牢に入れておくまでよ」
「その牢には、時々私も様子を見に行っても良いでしょうか。我々が行った初めての駆除以外の仕事として記憶に残しておきたいのです」
「風変わりだが、面白い考えだな。別に良いぞ」王は少し笑いながら答えた。メテオ隊長は少しだけ嫌な笑みを浮かべた。そして「では、仕事に取り掛かります」と王に伝えると、ウィードと共に部屋を出た。
「まずは隊員を集めてこの話をしないとな」
「そう、ですね」
ウィードはぎこちなく答えた。その日は一旦家に帰り、翌日から彼女の捜索が始まった。
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