3-2

 翌朝、メテオ隊長と共に王宮に向かった。大通りは仕事場に向かう人や店を開ける準備をする人たちが行き交っていた。

「こうやってお前と歩くのは、なんだか久しぶりだな」

「そうですね。今や同じ班での行動しなくなってしまいましたし」

 ウィードは、移動しながら人と会話するのが好きだった。というのも移動という目的を果たしている以上無理をして会話する必要はないし、しかし会話できる余裕は存分にある。不思議と、いつも以上にリラックスした気分で他人と一緒に居られるのだ。こういう時、ウィードは自分の悩みを人に打ち明けてしまう、相談するつもりがなくても。

「私生活の出来事を引き摺って仕事に支障をきたすのは、どうなんでしょうかね」

 メテオ隊長は、一瞬だけこちらを見て、すぐに前を向き直した。向かいからやってくる人と肩が当たりそうだったので、少し体を逸らした。

「どうした急に。それは隊の誰かの話か、それともお前自身の話か」

「自分の話です」

 ウィードが間を空けてから答えると、メテオ隊長は、「うーむ」とありきたりな悩み方をした。というのも、ウィードがどれほど真面目な人間であるかを理解していたからだ。仕事が辛いとか嫌とか泣き言を言っている瞬間を見たことがないほどなのだ。だからこそ甘えたことを言うなとか手をぬく言い訳を作るなだとか、厳しい意見は出せなかった。ここでの発言を間違えてしまい、ウィードに何かしらのきっかけを与えてしまい、駆除隊からいなくなってしまうと大損失だ。彼は次の一言を慎重に選んだ。

「普段から果たすべき責任を果たしているなら、構わないんじゃないのか」

 ありきたりで、普遍的で、目新しさもない内容となった。ただ、これで良いのだとメテオ隊長は考えていた。「お前ならいつでも休んでも構わない。しっかり帰ってくるのならな」と続けた。ウィードは「ありがとうございます」と言いかけたところに、馬車が車輪の回る音を立てながら近づいてきたので、一旦話すのを止めた。通り過ぎてから「いつかお言葉に甘えるかもしれません」と話を終わらせた。メテオ隊長としては、急に何故そんな相談をしてきたのか非常に気になっていたのだが、これ以上深入りするのは止しておいた。王宮の入り口で手続きのために門番が近づいてきたので、そもそも会話を続けられなくなった。

 ウィードが前に出て、門番に伝えた。

「王に呼ばれて参りました。簡易召喚状があります」

 これに合わせてメテオ隊長が2枚の紙を取り出した。門番が目を通すと、二人の前から退いた。二人はどのような用事で呼ばれたのか推測しながら、王の間の扉の前までやってきた。メテオ隊長は王と面識はあるものの、そこまで近しい仲ではなかったため、少し緊張していた。扉の前で少し躊躇ってから、「じゃあ、行くか」と中に入っていった。

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