2-3

 ルーナは、昨日立てた予定の通り王宮に来ていた。

「久しいな、ルーナ。しばらく顔を見ていなかったから、母さんと心配していたぞ」

「嘘つかないで。お父様はお母様とそんな話はしないでしょう。それにお母様は私の研究を理解してくれている」

強い口調で話す事によって、父がいつものように話をはぐらかすのを止めさせた。彼女の目的は、父に文句を言うためであったからだ。

「私はお父様にとことん失望しました。そんなの、今やる必要ないじゃないの」

 父は椅子に深く座り、脚を組んで、呆れたようにため息をついた。

「馬鹿な事を言うんじゃない。お前はまだ子供だから難しい話を分かっていないだけだ」

「難しい話って何。お父様が勝手に難しくしてるだけでしょ」

「私は王として国民の生活を守らねばならんのだ」

「守ってる? どこが?」

 彼女は鞄から書類の束を取り出した。父の目の前まで行って、それを見せつけた。「これ何かわかる」「わからないな」彼女は書類をパラパラとめくった。

「影の国との国境の生態についての調査結果よ」

 そこには、そこで見られる魔物とその説明がみっちりと書かれていた。黒い狼は人間を襲わない、二足歩行の牛は人間を襲わない、頭が三つの蛇は人間を襲わない、そのような内容だった。

「確かに危険な魔物もいる。けれど、そんなの数少ないわ。だったら魔物の駆除にあんなに人や物を割く必要もないでしょ」

 父はまたため息をついた。

「だから、あそこに人を配置しないと向こうから侵略されるんだよ」

 彼女は、今度は書物を取り出した。先ほどと同じようにパラパラとページをめくった。

「ここ二百年あの国と争った歴史なんて無いわ。それも駆除隊を配置する以前から」

「いつ相手の気が変わるか分からないだろう」

「だからこそ、割きすぎって言ってるの。人を襲う魔物と、他の生き物を食い荒らす魔物だけを駆除していれば事足りるでしょう。それに他の国にも攻め入ろうとしている」

 彼女はその後も意見を続けたが、父はまともに聞いていなかった。「分からんやつだな」父は立ち上がり、声を荒げた。

「いいか、国というのは他の国から奪い続けなければ生きていけないのだよ」

 それに合わせるようにルーナも声を荒げた。

「そうやって奪ってる間に内側が崩れ始めてるじゃない。お父様がこんな愚かだとは思わなかった。このまま意見を変えないのなら、この研究内容を国民に知らせるわ。そうしたら皆気が付くでしょうね、王はこんな無駄な事に税や物資、人を使っているのかってね」

「そんな行為は許さん」

 ルーナは、嫌な気配を察知していた。研究成果の書類の束や、書物を鞄にしまった。

「私も娘にこんな事はしたくなかったが。捕らえろ」

 父がそう言い終わる前に、彼女は走りだしていた。王の間の前に構えていた守衛は不意を突かれ部屋から逃がしてしまった。

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