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 王宮の城門から出ると、賑わった城下町が眼下に広がった。露店や芸者が並び、町人が行き交っていた。

「このあたりは、賑やかで平和ですね」

 ジャックが呟いた。ファビュラス将軍は、この町は確かに平和だ、と思った。しかしそれが偽りであるとも気が付いていた。真夜中に城下町の外れを歩いていると、女子供を攫う者や金品を奪おうとする者が現れ、町はもっと荒んだ様相を呈してくる。ここは単に、犯罪から遠い場所にある、だから平和なだけなのだ。この町が平和だからこの国が平和という訳ではない。ただ、彼はジャックの言葉を否定しなかった。「そうだな」

中心街を通り抜けようとした時、一人の女性が彼を指さした。「ねぇ、あれさ」その横の女性はこちらを凝視してきた。「本当だ、本物よ」二人は彼らのほうに駆け寄ってきた。

「あの、ファビュラス将軍ですよね」

「知ってくれているんだね」

「大ファンなんです。握手してください」

「いいとも」

 ファビュラス将軍は、力強く二人に握手した。「ありがとうございます」二人は立ち去った。その様子を見ていたまた別の者が近づいてきた。「僕もファンなんです」「以前あなたの軍に助けられた事がありました」「私の子供を見つけてくれてありがとうございます」ファビュラス将軍とジャックは前に進めなくなってしまった。ジャックは次々に近づいてくる人々にうんざりしてきた。「はい、すみません一回並んでください」大きな声を張り上げた。

「我が将軍は全員の相手してくれますから、大丈夫です。一回並んでください」

 ジャックは人混みを整理し始めた。ファビュラス将軍は先頭の人から相手し始めた。ジャックが再びファビュラス将軍の横に戻った。「こうでもしないと収集つきませんよね」「確かにその通りだ、ありがとう」

 こうして皆の相手をしている時に、行列を無視して横を通りすぎて城門に入っていく、色白で華奢な女性がいた。この人だかりを全く気にも留めずに歩いていったので、妙にその女性が気になってしまった。しかし声をかけてくれた皆を無視してその女性を追いかけに行く訳にもいかない。目で追いかけるしかなかった。ただ幸いな事に、その女性は門番に止められて、追い返されていた。二人が言い争う様子も見えていた。

「ねぇ、あなた私を知らないの?」

「ああ、知らないな。大体お前を知っていても、顔だけで判断するわけにはいかない。許可書か召喚状が必要だ」

「そんなもん無いわよ。そもそも、そんなものが必要な立場じゃないの」

「だったら尚更、お前みたいな無関係な女を城に入れる訳にはいかないな」

「ちょっとまって、あなた今どうやって私が無関係な女って判断したの」

「そりゃここらで見ない顔だからな」

「あなたこそ顔だけで判断してるじゃない。私の事、もっと偉い人に確認してみたらどうなの」

 その女性は門番を躱して無理やり王宮の中に入っていった。それを見ている間、ファビュラス将軍はずっと同じ人と握手してしまっていた。

「将軍、この人だけ握手長くないですか」

 ジャックに注意された。

「ああ、この人の手の握り心地がよくてね」

 相手は、手のがさがさした、年老いた老婆だった。

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