第9話 神子
この研究施設ではなにか恐ろしい研究が行われていた。だが目的まではまだわからない。
「魔術と科学は相いれないものだと私は思っていた」
御手洗先輩がそう呟いた。
「だがここでは魔術を科学の範疇で扱えるようにすることを目指していた。それは一魔術師としては衝撃を隠せないんだ。世界観がガラガラと崩れていくに感じるよ」
魔術師としては思うところがあるようだ。まあ異能の力に縁のない俺にはその感覚は理解できないが。
「もっとも結果的に人体実験に踏み切ってしまったことには人として怒りを覚える方が大きい。今まで魔術師が人を生贄にして様々な邪法を成してきたのを討伐してきた者としては、科学者たちも魔術師たちと残虐さは変わらないという点でがっかりもするがね」
「ほぇ?御手洗先輩って悪い魔術師とかと戦ったことあるんですか?」
市村がなんか目を丸くしている。
「ああ。去年までは様々な「魔術結社」と裏の世界で死闘を繰り広げていたんだ。金を生み出すために一つの都市を溶鉱炉に沈めようとした錬金術師、不老不死を実現するために人を喰らった道士、魔術の高みを目指すために自らを吸血鬼にならんと人々を生贄にしようとした魔術師。様々なものたちと戦ってきたよ」
「ひぇ?!あの。その戦いってなんかこう一芸特化な男の子といっしょだったりしませんでした?」
「ああ、そうだが。なぜわかった?幼馴染の男と一緒に戦ってたが」
「テンプレ伝奇だ!当然その男の子に惚れてる美少女たちの味方もいっぱいいたんですよね!」
「その通りだ。なぜ市村は見てきたかのように当てられるんだ?」
「そして先輩はその男の子に思いを寄せていたけど。恋のさや当てに負けたんですね!」
「恋?いや。特にそんな感情をあいつには持っていなかったぞ。むしろ一芸特化でいつもピンチになって私たちがサポートして辛勝するを繰り返してうんざりしたというのが正直なところだ。私も女だ。頼りがいない男は好かない。甲斐性も欲しい。あいつにはその両方共がなかった」
「マケインしましょうよ!なんでそこだけ現実主義なの!?主人公っぽい人の幼馴染なんだからそこは勝ち確ヒロインか負けヒロインでキャラ立ててくださいよ!」
「そんなこと言われても困るのだが…」
「はぁ。御手洗先輩は美学をわかってないなぁ」
市村はなんかがっかりしてるけど、俺的には先輩の戦闘能力の高さの裏付けが出来て安心したのが正直な印象だ。むしろ今後ともその経験を生かしてゾンビと戦っていただきたい。
「ところで幼馴染さんはいまどこにいるんですか?」
「仲間たち共に魔術結社の本場のヨーロッパに旅立ったよ」
「幼馴染なのについていかなかったんですか?」
「私の魔術師としての責任は地元と日本にしかない。他国は守備範囲外だ」
「ドライ!」
先輩の地元愛はテンプレ伝奇よりも強かったらしい。もっとも今や流浪の身なのだが。
「まあそんなことよりも探索を再開しようね。市村。ここには研究データが遺されてるはずだよな。どこにあると思う?」
「ここよりも地下にあるサーバールームに行ければ回収できると思います」
「じゃあそうしようか。ただ侵入者たちもおそらくは研究データとかを狙ってるはずだからかち合うのには警戒しようね」
そして俺たちは研究室を出たのだった。
ゾンビをバットで葬りつつとある曲がり角でゾンビではない足音が聞こえた。俺は二人に止まるように指示を出して、曲がり角の向こう側を見るためにハンドミラーを使う。そこには侵入者らしき連中の姿が映った。気づかれないようにすぐにミラーを引っ込める。
「白人の男3人、アジア系1人、黒人1人。それと顔はわからなかったが女が1人見えた」
男たちはいずれも戦闘服にボディアーマーを着たプロの戦闘員に見えた。いずれもHK416を装備していた。
「女?偏見かもしれないがこんなところにプロの戦闘員と一緒に女が来るとは思えないんだが」
「俺もそう思うよ。だけど確かに見えた。ポンチョにカウボーイハットにミニのデニムジーンズ。見えてる両手両足にはごてごてと入れ墨が入れてあった。そのせいで肌の色がよくわからん。多分白人系だと思うけど。確証はないね」
一人だけ私服を着ているあたりもしかすると侵入者のリーダーの可能性がある。
「だがどうするんだ五百旗頭。このまま進むとかち合うことになるが」
「戦闘は避けたい。回り道しよう」
俺たちは来た道を少し戻り別の曲がり角を曲がる。そしてエレベーターの前にやってきた。
「先輩。扉切ってくれません」
「わかった。チェスト!」
先輩は刀でエレベーターのドアを切り裂いた。すると筐体のない竪穴が広がっているのが見える。
「ここのメンテ用の梯子を使っておりましょう。市村は俺がおんぶする」
「え?おんぶですか?!あてていいですか?」
「お好きにどうぞ。この状況で興奮できるほど、思春期していないんで」
俺は市村をおんぶして、竪穴の梯子に掴まり降りていく。御手洗先輩も俺に続いて梯子を降りてくる。
「ユイト先輩。上見てください。黒パンスト越しの白パンですよ!」
俺が上を見るとむっちりとした黒パンストごしの艶やかな白パンのお尻が見えた。
「覗くな市村!お前に見ることを許可した覚えはないぞ!」
「そこは俺に怒るべきでは?」
「お前についていくと決めた時点で操も忠誠も捧げた。五百旗頭は好き見るがいい!」
好きに見られるとありがたみが途端に薄れるのwhy?そして俺たちはそのまま最下層までたどり着いた。ドアを先輩に切ってもらってフロアに出る。
「血だまりとかゾンビの気配がないですね?」
「確かに静かすぎる」
女子二人はゾンビのいない気配にむしろ警戒感を高めている。俺自身もそうだった。だが先に進むしかない。サーバールームに向かう。やはり途中でゾンビに会敵することはなかった。だが所々で何かの燃えカスのようなものがあったのだけが気になった。
「なんでこんな灰があるんでしょうか?」
「ゾンビが焚火などするはずもない。何かの人為的な行為の後のはずだが。…っむ!魔力の残滓を感じる!」
先輩が灰を摘まみながらそう言った。
「侵入者の中に魔術師がいるとか?だとするとこの灰ってゾンビを焼いた跡とかですかね?」
市村の予想は当たっているような気がする。だけどこの灰があるのはこの階だけだった。
「この階だけでゾンビを焼いているのが解せないな。まあいい。先を急ごう」
俺たちは慎重に先を急ぐ。だがサーバールーム近くで侵入者の気配を感じて物陰に隠れた。彼らは俺たちには気づかずにそのままサーバールームへと入って行った。
「先越されちゃったね」
「ああ。残念です。間違いなくデータ抜いた後はサーバーそのものを破壊するでしょうから、わたしたちがあとから入っても骨折り損ですよ」
「他にデータを回収できるような施設はないのか?」
市村はしばらく顔を伏せていたけど、ぼそりと呟いた。
「粒子加速器の制御室と人体実験が行われていたであろう実験施設ですね。さっきの研究室で見た地図だと両方ともこのエリアにあります」
俺と御手洗先輩は渋い顔になってしまった。人体実験の施設なんてわざわざ見たいとは思えない。この施設自体はすでに壊滅状態だから実験を阻止するなんて言う動機もないしあんまり行きたくない。
「まずは粒子加速器の方に行ってみようか」
俺はそう決断し二人は頷いた。
ぎゃーてーぎゃーてーあーめんあーめんなむなむなむじーざすだぶつ
粒子加速器制御室にやってきた。だが期待していた研究員のノートPCなどの類はすべて半分くらい燃えた状態で放置されていた。他にも印刷されていたであろうデータ類なども燃えカスになっている。
「証拠隠滅ですかね?」
「かもしれんな。私がここの職員なら真っ先に燃やすだろう」
「でも肝心の粒子加速器は無事ですね。そのコンソールも」
市村が粒子加速器のコンソールを操作し始める。
「わぁすごぃ。この粒子加速器、公になっている粒子加速器のいずれよりも高出力ですよ。これなら確かにグラビトンも発見できたでしょうね。嘘!操作ログにマイクロブラックホールの生成実験の記録まであります!ノーベルさんでハーレムできますよここ!」
俺にはその意味がよくわからないが、ここの研究はシャレにならないレベルらしい。市村は楽し気にコンソールを操作している。
「あら。今現在この加速器動いてますね。なんか高濃度の粒子をぶん回してます。加速してた時間は1年?!てかあと5分ほどで加速停止するようです」
「どんな粒子が加速してるの?」
「えーっとなんでしょうこれ?知らない素粒子ですね。weltallno?ヴェルトールノ?ドイツ語ですかね?なんでしょう?万有子とでも訳せばいいのでしょうか?」
市村はコンソールを操作する。
「ふぇ?お隣の部屋で結晶化準備中って表示されてます。素粒子の結晶化なんて聞いたことありませんよ!」
俺は首を傾げた。一年間もずっとぶん回していた謎の素粒子がお隣の部屋で結晶化するらしい。
「市村。御手洗先輩。なんか嫌な予感がする。その素粒子の結晶。回収しましょう」
侵入者の目的はデータもそうだが、むしろこっちな気がしてきた。俺たちは偶然が重なって先回りできたみたいだ。俺はすぐにお隣の部屋に向かう。二人も後からついてくる。部屋に入ると眩しい虹色の光が部屋からあふれてきた。驚くことにその光から俺は押しだされるような力を感じた。
「うそ!圧力をもつ光?!なんなんですかこの物理現象?!」
市村はひどく驚いているが、俺は光の圧力に負けずに前に進む。そして部屋の中心にある透明なカプセルの前に辿り着いた。光はここから発せられている。そしてその光は徐々にカプセルの中で凝縮を始める。それはだんだんと人のような形になっていく。
「なにを生み出そうとしているんだ…?」
俺はホルスターからグロックを抜いてカプセルの中の光に向ける。何か予感が騒いでいた。これは光り輝いているけどとても良くないものだと。ここで引き金を引いてしまえと囁く自分がいる。だが何が産まれるのか見届けたい自分もいた。そして光はだんだんと女の姿に変わっていった。とうとう光の圧力に耐えられなくなったのか、カプセルにひびが入ってバリンと大きな音を立てて割れる。そしてそこから光輝くモノが俺の方へと降ってきた。俺はそれを両手で受け止める。光はおさまり、手のひらに柔らかな感触が伝わってきた。俺の両手の中にあったのは女の子だった。銀髪に真っ白い肌。凹凸の激しい豊満な肉体。手足もすらりと長くて完璧なプロポーションがそこにはあった。そして少女は目を開ける。その赤い瞳は俺をじーっと見つめている。その顔はとても美しかった。まるで悪魔が悪戯半分で作ったような人を魅了し堕落せしめんとさせそうな美貌。
「俺は五百旗頭結斗。お前は誰だ?」
「わたくしはラプタ・コンセプシオン。世界再誕の神子です」
そして俺たちは出会った。世界を賭けた戦いはこの日から本当の意味で始まったんだ。
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