第7話 遭遇
ねぇユイト。いつかあたしたちの手から血が洗い落とせたらなにをしようか?
そうだね。…旅に出てみたい。
旅?どこへ?
知らないところすべてかな。見たことないものすべてを見てみたい。
そっか。それは素敵ね。ねぇその旅には。
ああ。君も一緒だよ。
ありがとうユイト…。
夢を見た。久方ぶりに穏やかな目覚めだ。いったんこの騒動に一区切りついたからだろう。この一週間はひたすら物資集めに忙しかった。ショッピングモールやホームセンターから必要なものを盗んできたり、ゾンビの調査を行ったり。
「んんんうんん。ユイトせんぱいぃおはようございますぅ」
「ふぁあ。五百旗頭おはよう」
両脇で寝ていた二人も起きた。朝ごはんを食べて。俺たちはこの街からの脱出準備に取り掛かる。
「やっぱり旧炭鉱の地下道を通るしかないと思う」
「ですね。国道が県警に塞がれている以上は仕方ないでしょうね」
脱出路の策定は終わっている。街の北にある旧炭鉱の地下道を利用することになった。市役所で手に入れた地図によればトラックも通れるくらいの大きさのトンネルが徳島平野まで通っている。そこから淡路を経由して本州へと逃れるのが計画である。
「問題はトンネルの中がどうなっているのか見当もつかないことだ」
ゾンビだけなら何とかなるが、馬のゾンビも目撃した以上他の生き物だってゾンビ化していない保障が全くない。
「とりあえず暗視ゴーグルは手に入れたから闇で困るってことはないはずだけど」
「どちらにせよ選択肢はないのだ。行くしかあるまい」
不安は残るが選択肢はない。このままこの街に留まる意味が俺たちにはないのだ。
「先輩は本当にいいんですね?この街に残らなくても」
「ああ。家族も全滅していた以上ここに残る理由はもうないよ。まあ兄の遺体が見つからなかったことだけは悔やまれるがね」
先輩の家族はすでにゾンビになっていた。ご両親は先輩が自らの手で殺して、庭に丁重に葬った。その時ついでに家宝の刀と魔道具も回収してきた。あの時の泣いた先輩の顔は本当にいたたまれなかった。
「じゃあ行こう。俺たちは旅に出るんだ」
二人は頷く。俺たちはこの世界を壊した奴を見つけるための旅に出る。そして落とし前をつけさせるのだ。
【現時点での装備】
ユイト
MP5A4
グロック
鉈
バット
ナイフ
暗視ゴーグル
防弾チェストリグ
ナギナ
MP5A4
グロック
日本刀・無銘
小太刀
暗視ゴーグル
防弾チェストリグ
リルカ
MP5A4
グロック
暗視ゴーグル
ドローン
防弾チェストリグ
水食料 30日分
その他生活必需品多数
工具類多数
替えの下着、服人数分
盗んだキャンピングカーに荷物を載せて俺たちは出発した。北の山間までは特にゾンビに会敵することはなかった。そして旧炭鉱に辿り着いた。
「その昔は産業力向上に貢献したのに今や廃墟ですか」
「それどころか世界は終末だ。先人たちの苦労が水の泡だ。許しがたいよ」
トンネルを前にして俺たちは昼飯を取っていた。トンネルの中からは風の吹く音だけが聞こえる。
「一応ライトがついてるってことはまだ電気が通ってるってことだね」
トンネルの中にはライトがついていた。いちおうここのトンネルは工事業者がたまに使っているらしい。
「まあ日本は原子炉全面撤廃後、再生可能エネルギーに全面切り替えしましたからね。あれはメンテナンス効率がいいのでまだ放っておいても持つでしょうね」
地球にやさしい技術が終末を生き延びた連中にもやさしいのは皮肉以外の何者でもない。そして飯を食い終わった俺たちは装備を確認してからトンネル内部へと突入した。
トンネル内部は風の音以外は静かであった。俺たちを乗せたキャンピングカーはスムーズに走っていく。
「蝙蝠がいませんね」
「一応現役の道路でもあるからじゃないのか?インフラ関係者が出入りしていたわけだし」
運転は市村が担当している。俺たちはいざという時のために待機していた。ときたま分かれ道があったが事前に調べた通りに曲がって先に進む。
「ゾンビもいない。僥倖なのか?」
先輩は目を細めて首を傾げている。疑う気持ちはわかる。前だっていきなり意味不明な奴に襲われたのだ。油断は大敵である。
「ん?あれ?車止めます!」
市村が何かに気がついて車を停めた。
「どうした?ゾンビはいないみたいだが?」
「道が違うんです」
「ん?間違えたということか?」
「違います。地図にない通路があります!ここは十字路じゃなくて分岐路だったはずなんです!市役所の地図と食い違いなんておかしいですよ!!」
俺たちは降りて地図を確かめながら実地調査する。たしかに分岐路ではなく十字路になっていた。
「五百旗頭。見てくれ」
十字路の一つに頭が撃たれているゾンビの遺体がいくつも転がっていた。落ちている空薬莢は5.56mmNATO弾。この弾は日本の警察はあまり使わない種類だ。薬莢はまだ新しい。
「これってこの通路の先には人が沢山いる何かの施設があるってことですよね?」
「ああ。そしてその施設に誰かがいま侵入を図っているようだ。銃をもっているあたりまともな連中ではなさそうだ」
足跡もあった。六人ほどの集団のようだ。その軌跡は特殊部隊のような警戒感のある足運びを物語っている。
「どうします先輩?」
「どうする五百旗頭?」
二人は俺に判断を求めている。出口はもうすぐだ。だが正直に言って気になる。この週末世界では弾薬は貴重だ。ネットによれば各地に安全を確保したゲーテッドコミュニティができ始めているようだが、そこで銃器を自衛のために使うならともかくこんなところで使う意図がわからない。
「いったん。キャンピングカーを徳島平野まで出そう。車を隠した後で、その後ここに徒歩で戻ってきて調査を行う」
二人は頷いた。俺たちはキャンピングカーを飛ばして徳島平野の方へと出た。そしてトンネル近くの廃屋の中に車を隠した後、徒歩でさっきの十字路に戻ってきた。
「この先は敵が人間かもしれない。だけどこの世界で何かをしている連中は黒幕への手掛かりになるはずだ。気張っていこう」
俺たちは円陣を組み。
「「「ふぁいおー!」」」
気合を入れて通路を進むことにした。
---作者のひとり言---
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