第5話 銃器回収作戦

 警察署は駅の近くにある。ここは繁華街やタワマンも近くて元々の人口密度も高い。だからゾンビ共も道にたくさん歩いていた。


「どうする五百旗頭?私がおとりになろうか?」


「そんなことしなくてもいいですよ。警察署にさえ静かには入れればいいんです。この防犯ブザーと懐中電灯をくっつけたやつをドローンにくっつけて飛ばします」


「どろーん?ああ。最近流行りのラジコン飛行機か」


「ラジコン…?」


 先輩が死語使ってる。古風な人だとは思ってたけど、もしかして現代常識に疎かったりするのか?前にスマホ見せてっていったらパカパカのガラケー見せてきたしな。


「なあ。あいつらを引き離せればいいんだよな?」


「まあそうですけど」


「なら任せてくれ。ラジコンは貴重だろう。引きつけるだけなら手軽な方法がある」


 そう言うと先輩は両手を組んで何かを唱えた。すると周囲に蛍のような明かりがいくつか浮かび始めた。


「?!先輩それってもしかして魔術か?!」


「ああ。黙っていたのだが、私は魔術師だ。陰陽道と忍術系は修めている」


 超能力者は見たことがあるけど、魔術師は初めて見た。


「そんな力があるならゾンビ相手に無双できるんじゃ?」


「いや駄目だった。ゾンビには一切の攻撃魔術が効かないんだ。石なんかを魔術の力で飛ばしても威力がキャンセルされる。身体強化で殴っても駄目。間接的でも魔力の干渉を受けた攻撃はゾンビには通用しないんだよ」


「へぇ」


 こうなるとますますこのパニックは人の悪意が齎した用意周到な人災ってことになりそうだ。


「さらに言えば魔術での迷彩や気配を操作してもむしろ逆探知される。魔術師ではゾンビに抵抗できないんだよ」


 だからこそ先輩は俺に頼ったわけだ。


「だが魔術による攪乱は効果がある。こうやって光源を作ってやればあいつらの誘導は出来るんだ」


 そう言って先輩は蛍の光をゾンビたちに向かって飛ばした。ゾンビたちはその光につられて警察署の前からどいていった。


「じゃあ行きましょう。市村を待たせるのも可哀そうだ。ちゃっちゃとやって帰りましょう」


「ああ」


 俺たちは忍び足で警察署に突入した。









 警察署のエントランスは静かだった。だがゾンビのうめき声が時折聞こえてくる。


「問題は武器庫がどこかということ。それとそのカギのありかだ」


 署内の電気はまだちゃんとついていた。だから足元には困らない。俺たちはエレベーター近くの地図を確認する。


「流石に武器庫とは書いてないのか」


「カバーでしょうね。でもたしかSATは警備部だったず。…あった!3Fの北側だ」


 俺たちは階段をゆっくり登っていく。そして三階に辿り着いた。廊下にはゾンビの気配はない。俺はハンドサインを先輩に送って先へ進む。ここからは交互に先に進んでいき、同時にゾンビと会敵するのをさけてお互いにカバーし合う作戦だ。そして曲がり角に来た。


「おおぉおごおお」「ぅぅおおぁ」「げぁああああ」


 ハンドミラーで曲がり角の先を見ると三体の警察官のゾンビが見えた。俺と先輩は目を合わせて互いに頷き合い、駆け出す。そして。目の間にいるゾンビの頭を思い切りぶっ叩く。


「ぁああああああああ!!!」「おおおおお!!!」


 ゾンビはうめき声をあげて怯む。先輩は姿勢を崩したゾンビの隙を見逃さなかった。


「勢!!」


 木刀の鋭い突きで的確にゾンビの目を突き刺してそのまま脳髄まで破壊した。俺もまたゾンビの頭をバットを思い切り振り回して壁に置つけるように殴る。脳みそがぺちゃんこに潰れて血をぶちまけてゾンビはそのまま動かなくなった。そして残った一体は二人でタコ殴りにして殺した。


「一体一体は大したことがないが、群れるとやっかいだな」


「ええ。ほんとうにねぇ」


 俺と先輩は少し息を荒げていた。ゾンビ相手はとても疲れる。その場で少し息を整えてから先に進む。そして警備部のオフィスに辿り着いた。ドアをゆっくり開ける。中には四体のゾンビがいた。


「そっちは任せます!」


「ああ!」


 俺たちはそれぞれ二体ずつゾンビを相手に格闘した。時間はかかったが、倒すことは出来た。


「オフィスはこれでクリア…?!物音?!」


 オフィスの奥の部屋からガチャガチャと音がした。そしてその部屋のドアが開かれる。出てきたのは屈強な体格のゾンビ。ヘルメットにボディアーマーを装着し、両手で89式ライフルを持っていた。


「がああああああああ!!」


 そしてゾンビはライフルを俺に向かって発砲してきた。


「ゾンビのくせに銃を撃つのかよ!」


 俺は近くの机の裏に隠れた。先輩も伏せて物陰に隠れたようだった。


「どうする!?撤退するか?!」


 先輩の切羽詰まった声がする。こんな事態は予想外だ。普通ゾンビ映画でゾンビが銃を使うか?!その常識が俺たちをピンチに招いた。


「撤退はしない!先輩!蛍火出してください!目線を引きつけてくれ!」


「わかった!」


 すぐに先輩は蛍火を出した。その光はオフィスの中をフラフラと飛び回る。


「がぁあぁあぁああ!!」


 銃を持ったゾンビは蛍火に向かって乱射を始める。そして俺はゾンビに向かって駆けだす。


「うおおおおお!」


 俺が狙うのはゾンビが持つ銃。それを思い切りバットを振りぬいて破壊する。そしてゾンビの腹にケリを入れて吹っ飛ばす。


「やったか!!」


 先輩が顔を出した。


「いやまだだ!」


 壁に打ち付けられたゾンビは腰のホルスターに手を伸ばしてグロックを抜く。そしてそれを俺に真っすぐ向けてきた。そして引き金を引いたのだ。


「五百旗頭!!」


 銃声と先輩の叫び声が聞こえる。弾丸が俺に迫ってくるのを感じる。そう。感じるのだ。ゾンビの視線、指の向き、筋肉の震え。そのすべてを俺は感じていた。そしてそれらの情報が銃弾の軌跡を俺の視界に作り上げる。あとは簡単だ。俺は少し顔を横に反らした。銃弾は耳のすぐ横を掠めていった。


「ぁあ…がああ!」


 ゾンビにもどうやら動揺という感情がありそうだ。再び発砲してくる。だけどその弾丸の軌跡はすべて俺の目に映っている。それらを体をひねって避けて俺はゾンビに肉薄する。ゾンビの手を蹴っ飛ばす。銃が宙を舞う。それを俺はキャッチし、ゾンビに向かって銃口を向ける。


「こいつは貰ってくよ」


 俺は引き金をゾンビの頭に向かって弾いた。放たれた弾丸はヘルメットのバイザーを貫通してゾンビの頭に貫通し、脳を破壊した。ゾンビは動かなくなった。


「無事なのか?!」


 先輩が俺に駆け寄ってきて抱き着く。久方ぶりに女性の体の柔らかさを感じた。ほっと安心させるような温もりが心地よい。だけどずっと浸っているわけにはいかない。先輩から体を離して、俺は銃を持ったゾンビが出てきた部屋へ向かう。


「なあさっきお前銃弾を避けたのか?魔術の力は感じなかった?あれは素の身体能力でやったのか?!」


「ええ。まあ。撃たれるのには慣れてるんで」


「そういう問題か?!いや今は詮索は良そう。ここが武器庫なんだな?」


 俺たちが入った部屋には頑丈なロッカーがいくつもあった。すべて電子ロックがかかっている。


「どうやって開けるんだ?」


「うちには賢い子がいるんで」


 俺は近くの壁をトントンと叩いていく。空洞らしき反応を見つけてそこを持ってきたハンマーでたたく。するとなかに配線が走っているのを見つけた。俺はその中から光ファイバーを見つけてきて持ってきたケーブルを絶縁テープで繋ぐ。そしてそのケーブルをスマホに繋いで市村に電話をかけた。


「市村。ケーブルとスマホを繋いだ。やってくれ」


「承知しました。少し待っててください」


 そしてしばらくするとぴっとロッカーから一斉に音が響いて鍵が開いた。ここの電子施錠は開閉記録をシステムで管理している。そこを経由してハッキングし鍵を開けたのだ。


「さあ持ち借り放題だ。先輩リュック広げて」


「わかった!どれを持っていけばいい!」


「そこにある9mmって書いてある弾薬の箱を全部とりあえず入れてください」


 先輩は俺が指示した通り9mmX19パラベラム弾の箱を片っ端からリュックに詰めていく。俺はロッカーからMP5A4を三丁取り出してリュックに詰める。贅沢を言うならば89式かM4が欲しかったけどどうやらゾンビが使った奴だけしかなかったようだ。いちおうこの先のことを考えて5.56mm弾も回収しておく。あとは予備のマガジンを全部回収し、防弾のチェストリグを三人分。グロックを6丁ほど。それと閃光弾も貰っていくことにした。これ以上は二人で運べなくなってしまうのであきらめた。


「先輩。回収は終わったよ。脱出しましょう」


「ああ。わかった」


 そして俺たちは市村の待つ家に帰還したのであった。

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