第24話 剣術大会①

 王立学園は、王族や貴族の令息令嬢が通うので、かなりの寄付金が入ってくるため、設備はとても立派だ。

 小説でもその広さは書かれていたが、どこぞの何とかランドばりに広大な敷地を誇っている。

 剣術大会が開催される闘技場も、屋根付きの立派な建物だった。


「私が通っていた頃は屋根なんて付いていない屋外だったのよ」

「へえ、そうなんだ」


 小説で読んでいても、実際に見るとその大きさに圧倒される。


 観客席はほぼ満員で、お目当ての生徒の登場を今か今かと待ち構えている。


「兄上は何番でしょうか」

「そうねぇ、剣術は成績順のクラスとは関係ないし、新入生だから意外と最初の方かもしれないわね」


 こういう場合はランクが低い方から出場して、強い者は後からと決まっているようだ。


「母上、さっきの女性のことですけど」

「オハイエ伯爵令嬢のこと?」

「はい。あの腕の傷は自分のミスではないですよね」


 彼女もそれはわかっていると言った。


「何とか出来ないのですか?」

「心配するのはわかるけど、難しいわね」


 息子の問いかけに、ナディアは悲しそうに言った。


「他家のことには簡単には口出しできないわ。本人から相談されれば別ですけど、頑なにそうだと認めなかったもの、尚更よ」

「えっと、じゃあ、例えば彼女が兄上の婚約者になるとか」

「ジュストと?」


 息子の提案に、ナディアが驚く。

 我ながらいい考えだと思った。ステファンとどうにかなる前に、先に二人をくっつけてしまえばいい。


「そうです。婚約者にして保護するとか」

「それこそ、まずは両家の当主同士で先に話をしないと。あなたは子どもだからわからないでしょうけど、貴族同士の結婚は平民のようにはいかないのよ。家格というものもあるの。それにお相手のご令嬢に婚約者がいるかも」

「それはないです」

「どうしてわかるの?」

「う、そ、それは…」


 小説では婚約者はいなかったので、つい口に出してしまった。


「あなた、何かジュストから聞いているの?」

「え、な、何かって?」

「たとえば、気になる女性がいるとか…」

「う、ううん、何も聞いていない」


 学園での生活については色々手紙にも書いてきてくれるが、こちらから話題を振らないと、彼女のことは本当に何も言わない。なので情報もない。

 興味がなさ過ぎる。

 でもそれは、彼女に限ってのことではない。

 他の令嬢たちにも、ジュストは笑顔ひとつ見せない。


「旦那様と私も学園で知り合ったのもあるから、ジュストもそうなるのかしらって、思っているの」


「え、お母様達、学園で知り合ったんですか」


 意図せず両親の馴れ初めについての情報が入ってきた。


「言ってなかったかしら」

「知りませんでした」

「ステファンの両親もそうよ。学園に通うのは社交を学ぶため。ひいては婚約者のいない者が相手を探すためでもあるの」


 学園ひとつが大きな婚活会場になっているとは思わなかった。


「どうやらオハイエ嬢の方は、ジュストにクラスメイト以上の関心があるように見えたけど、どうも恋愛という感じではなかったと思うの。あくまでも私の勘ですけど」


 何かあると、女としての第六感が働いたらしい。


「兄上は、婚約についてどう思っているのでしょう」


 そろそろ恋愛フラグが立ってもいいはず。今日は彼女の腕に虐められた証拠も見た。

 今頃は、彼女のことが気になっているのではないだろうか。

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