第25話 剣術大会②
剣術大会の始まる時間になった。
「国王陛下だわ」
中央の観覧席に現れた人物を見て、ナディアが言った。
ちょっと遠くて顔はわからない。
遠くの国王から闘技場に視線を移すと、そこにジュストの姿を見つけた。
「あ、兄上ですよ、母上」
二人一組で五組が同時に出てきた中に、ジュストを見つけて母に教えた。
どうやら五組一度に試合をするらしい。
「あら、本当ね」
ナディアは持ってきていたオペラグラスを使って確認する。
「兄上の黒髪は目立ちますね」
黒髪はこの国では少ないが珍しくはない。
「これより王立学園の剣術大会を開始する! 偉大なるイベルカイザ帝国、アレッサンドロ陛下万歳」
「「「「「「「万歳」」」」」」」
司会が大声で叫び、その場の全員が陛下に向かって立ち上がり、胸を手に当てて叫ぶ。
陛下が手を翳し、それに応えたのが遠目でもわかった。
「始め!」
その合図で、五組それぞれが互いの相手と打ち合いを始めた。
「兄上、頑張れ!」
声を張り上げ応援する。
すぐにジュストは相手に向かって剣を振り下ろし、相手もそれに応戦して受け止めたが、ジュストの続け様の攻撃を受け止めきれず、終には握っていた剣を取り落としてしまった。
審判が二人の側に駆け寄り、勝者であるジュストの腕を掴んで、「勝者、ジュスト=モヒナート!」と叫んだ。
「やったぁ~!」
もちろんギャレットは腕を上に突き上げ歓喜したが、「きゃー、ジュストさまぁ」「すてきぃ~ジュストさまぁ」という黄色い歓声もあちこちから上がった。
「ジュスト=モヒナート」と書かれた横断幕を持った一団が少し離れたところにたむろしていた。
「い、いつの間に…」
「まあ、すごい応援ね」
「は、母上、あれって兄上の応援団ですか?」
小説では遠巻きにされて令嬢たちからは恐れられていた筈。
隣には、くつか別の人の名前が書かれた横断幕を持った人たちもいる。
その中にはステファンの名前も含まれている。
「まさか推し活」
こんなところでアイドルのコンサートのような光景を目にしようとは思わなかった。
「ジュストがこちらを見て手を振っているわよ」
応援団に目を奪われていると、母上が教えてくれた。
会場に目を移すと、本当にジュストがこちらを見て手を振っている。
こんなたくさんの人たちの中から、本当に此方がわかったのか。
慌てて手を振り返すと、ジュストがペコリと頭を下げた。
次の一団が入れ代わりに入ってきて、ジュストは中へと戻っていった。
「とりあえず一回戦は勝ったわね」
「これくらいで負ける兄上ではありませんよ」
「ふふ、そうね」
「あ、あれ、ステファンですよ」
次の一団の中でステファンを見つけた。
「あら応援してあげないの?」
「してもしなくても、勝つと思います」
何しろ主人公なんだから、一回戦で敗退とかはないだろう。
「それに僕は兄上専属ですから」
予想通りステファンは開始一分で勝利宣言していた。
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