第17話 語られなかった世界観②

 いつも思う。休みってなんて早く過ぎるんだろう。

 あっという間に、ジュストが学園に戻る時間になった。

 昨夜はジュストが、久々に一緒に寝ようと言ってきた。

 寝落ちするまで話そうと思ったのに、横になると瞬殺で寝てしまい、気づけば朝だった。


「おはよう」


 射し込む朝日に赤い瞳が鮮やかに光り輝いていて、しばらく見惚れていた。

 小説では、不幸な生い立ちと不遇な状況しか与えられず、愛に飢えていたと言えるジュスト=モヒナートが、こんなにも綺麗なんて知らなかった。


「どうした? ギャレット」


 目覚めたばかりで微睡まどろみながら、僕の頬に手を添えるジュストのスチル。

 これが弟だからこそ、特等席最残列で見られるのだ。


「何か変な夢でも見た?」

「兄上がいて良かったなぁって」


 そう言うと、ジュストは一瞬目を見開いてこちらをじっと見つめる。

 ただ目が赤いからと彼を監禁し虐待していた人たちは、小説の中ではどんな人たちかほんの数行書かれていただけで、殆ど情報はない。

 だけどいつかこの世界で、彼らが淘汰されてそんな差別が無くなることを祈るばかりだ。


「俺こそ、ギャレットとこうしていられて、うれしいよ」


 額と額を擦り付けてそう言われ、心が喜びに満ち溢れた。




「やあ、ギャレット、元気だったか?」


 夕方、ステファンがジュストを迎えに来た。


「ステファン、特進入りおめでとう」

「ありがとう」


 ステファンはポンポンと頭を優しく叩いた。


「すぐに兄上も来るよ」


 予定より早くステファンが着いたので、支度がまだ出来ていなかった。


「カレンが俺にべったりで、またいなくなると察して離れなくて。ちょうど昼寝の時間になったから慌てて出てきたんだ」

「カレン、すっかりお兄ちゃん子だね」

「忘れられたらどうしようかと思ったけど、あんな風に懐かれると、かえって辛いな。ギャレットは大丈夫か?」

「カレンみたいに子供じゃないよ」


 また子供扱いされてぷうっと膨れる。


「はは、何拗ねてるんだよ」

「やめてよ」


 膨らんだ頬をステファンが指で突く。


「ねえ、それより他にも特進に入った人がいるんだって?」

「ん、ああ、レーヌ=オハイエ伯爵令嬢のことか?」

「うん、ねえどんな人?」

「特進に入るくらいだから賢いんだろうけど、いつも俯いておどおどしていて、美人だけどとっつきにくい感じだ」


 そこら辺は設定通りだなと思う。

 ヒロインのレーヌは、筋書き通りの状態だと思っていいんだろうか。


「ふうん、美人なんだ。兄上はそんなこと言ってなかったよ」

「まあ、ジュストはそうだろうな。他人の容姿に興味ない感じだし」

「どういう意味?」

「あいつは誰かれ構わず付き合いを広げるタイプじゃない。自分にとって有益かどうかより、モヒナート家にとって必要な相手かどうかで付き合う相手を決めている。女性には興味がない感じだな。ジュストにとって一番はギャレット、そしてモヒナート家だから」

「ステファン、何の話をしているんだ」


 そこへジュストが支度をしてやってきた。


「ギャレットに変なこと吹き込んでいないだろうな」

「変なことって? お前が入学早々、女子生徒に取り囲まれたってことか?」

「え、そうなの?」


 ステファンの話に驚いてジュストを見ると、あからさまに顔を顰めてチッとジュストが舌打ちした。





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