第10話 物語の始まりに向かって①
ステファンは月に一回は泊まりに来た。
あの時の喧嘩が功をそうしたのか、ステファンの俺様ぶりは鳴りを潜め、三人の間ではジュストが一番偉くて、中心にはいつも彼がいた。
それが自信に繋がったのか、勉強でも剣術や馬術でもジュストはメキメキと才能を開花させ、内からも輝く存在になった。
三人で仲良くしていると、邸のメイド達がその光景を見て目の保養だと喜んでいた。
でも成長するにつれ、三人で一緒にひとつの寝台というのは無理がでてきて、ステファンは客間で寝泊まりするようになったが、わたしは変わらずこっそり夜中にジュストの部屋に忍び込んだりした。
「あったかいね」
ひとつの寝台で身を寄せそう言うと、「そうだね」とジュストは嬉しそうに微笑んだ。
「ギャレット」
癖のある金髪の巻毛を撫で、ジュストが名前を呼ぶ。
「僕を家族に迎えてくれてありがとう」
「僕、お兄ちゃんがほしかったんだ。かっこよくて賢くて誰より優しい、そんなお兄ちゃんが」
「ギャレットの言うようなお兄ちゃんに成れるかわからないけど、僕もこんな可愛い弟ができて嬉しいよ」
小説ではギャレットに虐げられ、荒んでいたジュストは、自信に満ち溢れ溌剌として光り輝いている。
美しい赤いルビーのような瞳を輝かせ、少年らしい素直な笑顔を見せるようになった。
そして月日は流れ、ジュストとステファンは十五歳になった。
来月には二人揃って王立の学園に入学する。
残念なことに、去年からジュストと一緒に寝ることはなくなった。
なぜかジュストがもう子どもじゃないからと言って、一緒に寝ることを拒否してきた。
寂しかったが、ここで我儘を言ったら、また変なフラグが立たないとも限らない。
せっかく世間でも評判の仲のいい兄弟になったのに、自分からぶち壊しにするわけにはいかない。
わたしはといえば、魂がギャレットに馴染んできたのか、過去の記憶はどんどん薄れ、体の成長と共にギャレットとしての考えや感情に支配されつつあった。
今では純粋にジュストを兄と慕い、尊敬していた。
「もうすぐ入学だね」
ステファンと妹のカレンが遊びに来ていたが、彼女は遊び疲れて眠ってしまっている。
兄のステファンの膝を膝枕にスヤスヤと眠っている。
ステファンはとても妹を可愛がっていて、いいお兄ちゃんだ。
本当は弟がほしかったらしいが、妹の人形のような可愛らしさに家族全員メロメロである。
シスコン街道まっしぐらだ。
「週末は帰ってくるから、寂しいかもしれないけど、我慢してね」
「兄上、僕はもうそんな子供じゃありません」
口を尖らせ講義する。
子供扱いがうっとおしい年頃なのだ。まだまだ出来ないことも多いが、ジュストやステファンと共にいることで、彼らを手本に日々努力しているところだ。
「そうか? 俺は寂しいな。嘘でも寂しいって言ってほしい」
子供じゃないと反論すると、逆にジュストが寂しそうにする。
そのシュンと項垂れた表情に、胸がズキンとなる。
ヤバい。またフラグを立ててしまった?ここですげなくしたら、ギャレットへのヤンデレ率が上がってしまう。
「ほ、本当は…寂しいけど、兄上だって学園で新しい出会いや、勉強とか色々忙しくなるでしょ」
それに、学園でギャレットとステファンは彼女に会う。
ジュストの闇落ちは免れたかも知れないが、物語の強制力がどう働くかわからない。
「学友との繋がりは学園卒業後の生活にも大きく関わるから、大事にはするし、勉強も頑張るけど、それはお父様たちが俺にしてくれたことへの恩返しの意味もある。やるからには上位を目指すよ。それに、ギャレットにとって自慢の兄で居続けることが目標だから。でも、ギャレットといつも一緒にいられないのは辛い」
「相変わらず弟至上主義だな」
「兄上は、自分のために頑張らないの?」
引き取って育ててくれたことに恩を感じるのはわかるし、殺されないために頑張って来たので、そこまで大事に思ってくれるのは嬉しいが、いずれヒロインと出逢えばジュストに取ってのギャレットの位置はぐんと下がる。多分、最下位に脱落するだろう。
学園での寮生活のために物理的に離れ離れになるのに加え、精神的にも弟離れになるだろう。
それを思うと、これ以上深入りしてはいけない。
そう思うのだった。
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