第4話 社畜時代は思い出したくない
俺の家は、SHRから徒歩20分くらいの場所にあるアパート。
もちろん、一人暮らしだ。
ちなみに俺の地元は、山梨県の田舎町だ。
両親と3歳下の妹は、実家で暮らしている。
大学卒業後に上京してきて、以前働いていた大手食品メーカーの営業部に就職した。
ド田舎出身なので、東京の会社で働けると思って楽しみにしていたのだが、いざ入社してみれば、とんだブラック企業だったものだから期待ハズレもいいとこだ。
先輩社員は俺に仕事押し付けてくるし、客からはクレームの嵐。
ノルマ達成できずに残業続き。
その上、残業代が労働量に合ってない。
もちろん辞めようとは何度も考えた。
しかし、両親に仕事を辞めたいと話すと…。
「何言ってるんだ。お前が自分で選んだ仕事だろう。男なら最後まで自分の意志を貫け!」
「せっかく大手に就職できたんだから、もう辞めるなんてもったいないでしょ!」
…と全力で反対された。
さらに、辞めたいと思っていることが先輩社員たちにバレてしまった時なんかは…。
「おいおい、獅子崎。本当に仕事辞めちゃうのか?寂しいなぁ!」
「勘弁してくれよ〜。俺たちはお前を頼りにしてるんだぜ?」
「若者は即戦力だからな!辞めてもらっちゃ困るんだ。なぁ、考え直してくれ。俺たちのために残ってくれないか?」
こんな風に圧をかけられた。
てか、頼りにしてるってのは、嫌な仕事の押し付けとか、ストレス発散用の精神的サンドバッグって意味だろうが。
こんな感じで、今まで仕事を辞められずにいた。
その流れで結局、五十路になるまで続ける羽目になった。
本当に思い出したくない記憶だな…。
それで、なんで今になって辞めることができたのかって?
それは、俺にパワハラをしてきた先輩社員の全員は同年代で、定年退職の時期がほぼ同時にやってきたからだ。
つまり、ジジイになってもアイツらはパワハラのゴミカス野郎だったわけだ。
アイツらが退職したということは、会社での俺の悩みの種が消えたということ。
なので、ぶっちゃけこの仕事まだ続けても良かったんだが、俺は固く決意したからな。
そう、ミカちゃんと約束したんだ。
俺は一人前のメイドになって、ミカちゃんをお嬢様にする。
本当にミカちゃんがこの店に来てくれるかは分からない。
俺のことを覚えているかも分からないし、もしかしたら遠い場所に引っ越してしまったかもしれない。
会えるかは分からないけど、俺は今できることを全力でやる。
おっさんメイドだとか笑われたって構わない。
だってミカちゃんは言ったんだ。
“メイドは全人類の希望と憧れ”だって!
「よーし!今日は明日に備えてしっかり準備しておくぞ!」
俺はアパートの自分の部屋に帰る。
「ただいまー…つっても誰もいないんだけど」
帰ってきてすぐに、俺は休むために寝っ転がった。
テレビでも観ようとリモコンを手に取るついでに部屋の中を見渡してみると、結構散らかっているのが分かる。
「やっぱりちょっと掃除するか…」
さっきは自分の身なりを整えたので、今度は部屋の中を整理整頓しようと思った。
カップラーメンの食いかけが放置されてたり、読みかけの漫画が散らかってたりしてる。メイドたるものこんなことは許されないな。
「よし、頑張るぞ!」
1時間後…。
「掃除終わったー!」
漫画は全部本棚に戻し、洗い物も全て済ませた。
そして、クローゼットの中も整理しようとしたら、こんなものが出てきた。
「これは…!何年か前に買ったピンク色のメイド服じゃないか!」
俺がメイド趣味に目覚めた時に、思い切って買ったメイド服があった。
しかも、ピンクのチェック柄。
「久しぶりに着てみるか!」
俺は勢いでそのメイド服を着た。
もちろんXLサイズを買ったので着心地に問題はない。
そして、鏡を見てみる。
「うん…これは俺が着ちゃいけないわ」
ピンク色というのが、男にとって合わなすぎる。
やっぱり俺はSHRの白い制服の方が似合うな。
「掃除したら疲れたな。今日はしっかり休もうと思ったのに余計に疲れてしまった。ちょっと昼寝するか」
今は午後の3時くらいなので、2〜3時間くらい昼寝することにした。
―――――――――――――――――――――
…そして、予定より長く寝てしまった。
目が覚めた時には夜の9時になっていた。
「マジか…。さっさと晩飯食って風呂入るか」
晩飯と風呂を済ませた俺は、明日のためにまた寝ることにした。
それにしても、さっきまで爆睡してたから今は全然眠くなくなってしまった。
頼むから、結局寝るまでに時間かかって、その分起きるのが遅くなったなんてことにはならないでくれよ。
五十路のおっさんがメイド喫茶で働くことになったら 巫有澄 @arisu1623
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