第3話 おっさんは自分に失望する
「あのぉ…、本当に俺、メイド服似合ってますか?」
「はい!とても似合っていますよ!」
「めちゃくちゃ可愛いですよ!」
流石に可愛いは嘘だろ…。
五十路のおっさんは可愛いは流石にないわ…。
俺はもう一度鏡で自分の姿を確認する。
うん、やっぱりキモいわ。
自分で言ってて悲しくなるけど、マジでキモいわ。
メイドって若くて可愛い女の子がなるものだというのは当然知っている。
俺もそれを分かっててここに応募した。
でも、いざとなって自分と向き合うと、自分の愚かさを今更知った気分になった。
後になって後悔するとはこのことだな。
断言しよう。
俺がメイド服を着ても、1ミリもメイドに見えない!
本来のメイド喫茶なら、顔が可愛くて、スタイルが良くて、ちゃんと笑顔で接客できる10代後半から20代前半くらいの女の子が相応しいのだろう。
それに対して、俺は別にイケメンではないし、体の線が細いわけでもない。
ずっと笑顔で接客できる自信もない。
社畜時代は、営業続きでビジネススタイルはよくやってたけど…。
さらに、背は結構高い方で、体格はそこそこ筋肉質である。
しかも、短髪だし、ヒゲ剃り忘れたし。
あとミニスカート履いてるからスネ毛がすげぇ目立つ。
なんだよ、スネ毛とヒゲ生やしまくった筋肉質おっさんメイドって。
完全に終わってんじゃん。
俺はまた自分に失望してしまった。
「獅子崎さん、落ち込む必要はありません。案ずるより産むが易し、ですよ」
「少なくとも私は男性のメイドも斬新でいいと思ってます!なんなら私が獅子崎さんに接客されたいくらいです!」
2人にはフォローされてるはずなのに、俺の心はどんどん痛くなっていく。
ネガティブになってる時にポジティブな言葉かけられても逆効果なんだよなぁ…。
「すみません、ちょっと御手洗いお借りします…」
俺は心を落ち着かせるため、一旦トイレに避難した。
そして、鏡の前でもう一度自分の顔をよく見てみる。
「やっぱ気持ち悪ぃおっさんだなぁ…」
鏡に映ったのは、ヒゲと顎ヒゲをボーボーに生やして、失望感に染まった目をしていたおっさんだった。
「とりあえずヒゲ剃るか…」
自分にメイド服が似合わないとか言う前に、ヒゲがあると不潔感極まりないので、全部剃ることにした。
「うーん…、さっきよりはマシになった…かも?」
次に俺の全体像を確認してみる。
「やっぱスネ毛ボーボーだと気持ち悪ぃな」
ついでにスネ毛も全部剃ることにした。
「よし、これもさっきよりはマシ!」
顔中にヒゲがついてしまったので、顔を洗って、身なりを整えて、控え室に戻った。
「すみません、お待たせしました」
すると、山崎さんとユアさんの反応は予想以上のものだった。
「獅子崎さん、ヒゲを剃ってきたんですね。とてもかっこくなりましたね」
「すごい!かっこいい!かっこいいと可愛いが同時に来てます!」
「そ…そうですかね?」
なんか自分の見た目をマシにしてみたら、少しだけ自信がついてきたかも。
よし、ちゃんとできるかは分からないけど、やれるだけやってみようかな!
「山崎さん!次はどうしますか?」
「獅子崎さん、自信がついてきたようですね。良かったです。さて、次ですが役割分担を決めましょうか。接客担当と厨房担当、どちらが良いですか?」
フッ…。
そんなのは決まっている。
もちろん…!
「接客担当でお願いします!」
「はい、分かりました。こちらが接客マニュアルです。時間がある時に読んでもらえると助かります」
そう言って、山崎さんは接客マニュアルを渡してきた。
ぶっちゃけ、そんなのはなくてもメイドの心得はある。
なぜなら、俺は5年以上メイド喫茶に通い続け、前の会社で働きながらメイドの勉強もしていたのだから!
「では、獅子崎健太郎さん。本日からあなたはこの店のメイドさんです。ようこそ、メイド喫茶SHR(スターハートレインボー)へ!」
「はい!これからよろしくお願いします!」
遂に俺は昔からの夢を叶えた。
本当にメイドになることができたんだ。
「では、本格的な業務は明日からお願いしますね。もし、仕事で分からないことがあれば、私でも他のスタッフさんでもいいので気軽に聞いてください」
仕事自体は明日からか。
なら今日は、明日に備えてしっかり練習しておかないとな。
「はい、では本日はこれで失礼します」
「はい、今日はしっかり休んで、明日精一杯頑張ってください」
「獅子崎さんと一緒にメイドができて、ユアも嬉しいです!頑張りましょうね!」
ついに明日から俺も本格的なメイドか。
楽しみだな!
俺は山崎さんたちにお辞儀をして、店を出て家に帰ることにした。
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