王太子の婚約者はもう耐えられない!

みつまめ つぼみ

王太子の婚約者はもう耐えられない!

 王太子妃教育の一環として実務をこなして早一年。今日も私の机の上には、膨大な書類の山が積み上がっていた。


 なにこれ、また今日も王族の決裁が必要な書類が交じってる。


 私は小さく息をついて、傍で手伝いをしてくれている文官に告げる。


「ちょっとハンス、また殿下の書類が交じってるわよ?

 私に決裁できない書類を回さないでくださらない?」


 文官のハンスが書類から顔を上げ、こちらに申し訳なさそうに眉をひそめて応える。


「そちらの書類は早急に決裁が必要なものです。

 取り急ぎクララ様の決裁で構わないと、王妃殿下からも許可を受けております。

 殿下では、その書類がいつ処理されるかわからないものですから」


 ――またそれか。


 シャッテンハイム辺境伯の娘でしかない私の決裁で王家の事業を進めるなんて、後で問題が起きたらどうするつもりなのかしら。


 殿下が貧民区画の区画整理を言い出して早半年。


 その計画立案から実行の決裁、その報告書を確認しての決裁まで、全部私がやってる気がする。


 この机の上の書類、ほとんど殿下の仕事じゃないの?


 思わず私の口が愚痴をこぼす。


「いくら殿下の婚約者とは言え、辺境伯家の娘でしかない私が王都の都市計画なんて進めていい物なのかしら。

 ご自分で言いだした事業を私に押し付けて、殿下は今どちらで何をなさってるというの?」


 ハンスが苦笑を浮かべながら応える。


「それはお知りにならない方がよろしいかと」


 私は肩から力が抜けたように、がっくりと机に肘をついた。


「またなの? 今度はどこのご令嬢?」


「申し訳ありません、私の口からは……」


 王太子は仕事を私に押し付け、自分は若い令嬢と部屋で懇ろにしている――王宮でもっぱらの噂だった。


 私の口がため息を漏らした後、姿勢を正して書類に向き直った。


「……もういいわ。決裁が滞っても、貧民区画の住民たちが困るだけだもの。

 殿下の名前で推し進めている都市改善計画、テキパキと進めてしまいましょう」


 私が次々と書類に目を通して署名をしていくと、ハンスが苦しそうに告げる。


「クララ様の仕事は的確かつ迅速です。

 おかげで住民とのトラブルも最小限、費用もなんとか予算内に納まっております。

 この調子なら、今回の都市改善計画は無事に完遂できるかと」


「何を当たり前のことを言っているの?!

 人が住んでいるのよ?! きちんと計画を完遂できなければ、住んでいた人たちの住居が宙に浮くわ!

 王都の民衆を困らせて、誰が得をするというの!」


 私が思わず声を荒げてしまった言葉に、ハンスは困ったような微笑みで応える。


「はい、民衆のため、頑張っていきましょう」


 ……ハンスは別に、悪いことは何もしてないのよね。


 悪いのは全部ステファン殿下。


 きれいなお題目で大きなことを言いだして、その調整から実行まで全てを私に丸投げしてきた。


 短い期間に足りない予算、意固地になる民衆たちの説得も、私が文官たちと一緒になってなんとか回してる。


 絵空事の事業計画を地に足を付けたものに書き直し、陛下の承認を頂いて、王都の商人たちを多数巻き込んで事業を進めてる。


 今さら中止なんてできないし、遅れるほど予算が苦しくなる。


 王都市内の貧民区画整理が成功すれば、税収が上がって次の区画整理の原資にできる。


 他にも殿下の名前で進めている慈善事業や公共事業が山ほどある。


 愚痴を言ってる間も惜しいのだから、脱力してる暇なんてない。


 私は頭を切り替え手を動かし続け、書類の山を片付けていった。





****


 貧民区画の整備は、順調に進んでいった。


 都市改善計画、その最後の書類。全ての報告をまとめ、計画の完遂を認可するものだ。


 これくらいは殿下が自分で署名するべきだろう。


 私は書類を持って椅子から立ち上がり、傍らのハンスに告げる。


「殿下の執務室に行ってきますわ」


「おやめになっておいた方が……」


「いいのよ、何を見ようと、気にしなければいいだけ」


 私は部屋にハンスを残し、殿下の居る執務室に向かった。



 執務室を訪れると、衛兵たちが閉ざされた扉の前で、居心地悪そうにしていた。


「殿下は中に居らっしゃる? 通してもらえるかしら。殿下に決裁してもらいたい書類があるの」


「今はおやめになった方がよろしいかと」


「誰かいるの? 構わないわ。開けて頂戴」


 衛兵がノックをして「クララ様がお見えです」と中に声をかける。


 ……返事はなし、か。いや、若い女性の声が聞こえる。


 私は衛兵を押しのけて、扉のノブに手を伸ばした。


「――クララ様! いけません!」


 衛兵の制止する声も聞かず、私はノブを回して室内に足を踏み入れる。


 私の目の前には、ソファの上で致している殿下と令嬢のあられもない姿。


 黄色い悲鳴を上げる令嬢と呆然とする殿下を無視し、私はつかつかと執務机に近寄り、ペンを手に取った。


 今度はソファの前のローテーブルに書類を置き、殿下にペンを差し出して告げる。


「御署名を。それだけ頂ければ帰りますわ」


 殿下はしばらく私の顔を怪訝な顔で見たあと、渋々書類に記名していった。


 私は書類だけ受け取り、無言で部屋から出ていく。


 扉を閉めたあと、立ち去ろうとする私の背後から殿下たちの会話が聞こえてきた。


「何なのあの女! 失礼にも程があるんじゃない?!

 ねぇ殿下、あんな女は早く処刑してください!」


「まぁそう言うなアンナマリー。

 あれは便利な女なのだ。居てくれねば困る。

 だが正妃はお前だ。クララは側妃として今後も働いてもらわねばならん」


「本当に?! 私が正妃なのね!」


「ああ、もちろんだとも」


 私は力が抜けて、ずるずると扉に背中を預けてしゃがみ込んでいた。


 背後からの嬌声を聞きながら、うつむいて深いため息を吐き出していく。


 衛兵が私を気遣ってか、声をかけてくる。


「クララ様、大丈夫ですか? ですからおやめになった方がと申し上げましたのに」


「……大丈夫よ、大したことないわ」


 私は立ち上がると、潤んだ目を手で拭ってから自分の執務室へと帰っていった。



 廊下を歩きながら考える。


 私は側妃――ただ仕事を押し付けるだけの、便利な女扱い。


 正妃としては言葉通り、さっきの若い令嬢を据えるつもりなのだろう。まだ未成年だろうに、殿下は年下好きなのかしら。


 さっきの子はリンデンホフ子爵家の娘か。今年で十四歳だったはず。


 正妃にするには家格が足りない。どこかに養子に出すつもりかな。


 私だってまだ十六歳――成人してから一年しか経ていないというのに、殿下の目はまるで年増扱いだった。


 くたびれて見えるのは、仕事を全部押し付けてくる殿下のせいだろうに。


 なんだか悔しくて、また目が潤んでくる。


 足を止めて目を拭っていると、横から声をかけられた。


「どうしましたクララ嬢、何か悲しいことでも?」


 慌てて振り向くと、そこには隣国の王太子、ヴォルフリート殿下が居た。


 隣国アイゼンシュラーク王国から、我が国の内政を視察に来られた勉強熱心な方だ。


 我が国以外にも足を運び、見聞を広めようとしているらしい。


 まったく、ヴォルフリート殿下の爪の垢を煎じて、ステファン殿下にお腹いっぱい飲ませたい。


 こんな立派な方に、私のみっともないところなんて見せられない。


「――いえ、目にゴミが入ってしまって」


 ヴォルフリート殿下が翡翠のような瞳で私を悲しそうに見つめ、指で涙を拭ってくる。


「そのような顔では説得力がありませんよ。

 私で良ければ、愚痴ぐらいは聞いて差し上げましょう」


 わずかに迷った後、私は首を横に振った。


「いいえ、本当になんでもありません。

 お気遣いをありがとうございます」


「……そうですか。ですがあなたの愚痴ならば、いつでも私がお聞きいたします」


「ええ、ありがとうございます、ヴォルフリート殿下」


 私は会釈をした後、再び足を動かし始めた。


 いくら優しくされても、隣国の王太子にこの国の愚痴なんて言えない――ふと私の手を、後ろからヴォルフリート殿下が掴んでいた。


 驚いて振り返ると、殿下が熱い眼差しで私を見つめて告げる。


「私はあなたのためなら、どんなことでもいたします。

 どうかそれを覚えていてください」


 ――こんな目、ステファン殿下から浴びたことすらない。


「なぜ、そのようなお言葉を?」


 ヴォルフリート殿下が気恥ずかしそうに鼻をかいた。


「……一目見た時から、あなたを素敵な方だと思っていました。

 ですがあなたはステファン殿下の婚約者、この気持ちは伏しておくつもりでした。

 だというのに、あなたはステファン殿下の部屋からそんな顔で歩いてきている。

 何かを言わずにはいられなかったのです」


 私は自嘲の笑みを浮かべて応える。


「仕事に明け暮れ、くたびれてしまった私などより、殿下にはもっと相応しい方がいらっしゃるのではありませんか?」


 ヴォルフリート殿下の口元に運ばれた私の手の甲が、彼の唇の感触を感じていた。


「あなたは充分にチャーミングだ。

 その上、とても優秀な政治家でもある。

 都市計画書を拝見しましたが、実に見事な手腕です。

 よろしければあなたの部屋で、詳しくお話を伺っていいでしょうか。

 我が国の都市計画で参考に出来ればと思います」


 そんな言葉、初めて言われたな。


「……わかりました。では執務室へいらしてください。

 詳細な資料をお見せいたしますわ」


 私は手を離してくれたヴォルフリート殿下を連れて、執務室へと戻っていった。





****


 それからも度々、ヴォルフリート殿下は勉強といっては私の執務室を訪れた。


 来るたびに殿下は書類の山に驚き、それを消化する私の事務速度に驚いていた。


「あなたは魔法使いですか?

 あれほどの書類の山が、なぜ一日で片付くのですか」


「一年も同じことを繰り返していれば、誰でもこれくらいはできるのではなくて?」


 傍で話を聞いていたハンスが、フッと笑いをこぼした。


「署名をするだけなら、同じような速度でこなす貴族は居ますがね。

 目を通し中身を把握してから署名してその速度を出せるのは、クララ様くらいですよ。

 今やクララ様の署名は、王太子直筆の署名と同等の効力を持ちます。

 実質的に王太子はクララ様になっているようなものですね」


 ヴォルフリート殿下が呆れたように大きく息をついた。


「あなたは本当に十六歳なのですか? 末恐ろしい女性だ」


 殿下の手が、私が署名したばかりの書類を手に取った。


 彼の目が書類の中身を見ていく――その顔が、驚きの色に染まった。


 私は微笑みながら殿下に告げる。


「殿下? 他国の内政書類を盗み見るのは、いささかマナー違反ではなくて?」


「――失敬、だがこの書類、これは」


 その口を、私は人差し指でそっと塞いだ。


「それ以上はいけません」


 ――この書類だけで勘づくなんて、さすがヴォルフリート殿下ね。ステファン殿下とは頭の出来が違うみたい。


 ヴォルフリート殿下が、おずおずと私に告げる。


「本気なのですか?」


「殿下は本気であらせられないと仰るの?」


「決してそうではありませんが、しかし――」


「もう手続きは進んでおりますわ。

 ヴォルフリート殿下は、何の心配も要りませんわよ?」


 ハンスが微笑みながら告げる。


「我々はクララ様の決定に従うまで。

 仔細は我々にお任せください」


 ヴォルフリート殿下が書類を決裁済みの山に戻し、引き締まった顔で応える。


「わかった、そういうことであれば、私も準備を進めてこよう」


 私は書類を片付けながら応える。


「ええ、お願いいたしますね。

 頼りにしていますから」


 身を翻して部屋を出ていくヴォルフリート殿下を気配だけで見送る私に、ハンスが声をかけてくる。


「あとどのくらいかかりますか」


「もうじきよ。そう、もうじき」


 順調に書類の山を片していく私にハンスが笑いをこぼす。


「フッ、あなたはなんて恐ろしい人なんだろうか」


「そうかしら? 当然のことをしているだけではなくて?」


「……そうですね。確かに、当然のことでしょう」


 それっきり、部屋の中はペンを走らせる音だけが響いていた。





****


 都市計画完成を祝う夜会当日、ステファン王太子はリンデンホフ子爵令嬢アンナマリーを連れ、夜会に参加していた。


 周囲からはひそひそと白い目で見る貴族たちが大勢いるが、王太子たちはそれを気にする様子もない。


 ステファン王太子が周囲を見回して告げる。


「クララはどこだ? まだ執務室にこもって仕事をしてるのか?」


「お呼びかしら? ステファン殿下」


 ステファン王太子が声に振り向くと、ドレス姿のクララが隣国のヴォルフリート王太子を伴って夜会会場に来ていた。


 だがヴォルフリート王太子の姿は鎧姿で、夜会会場には不似合いだ。


 彼の周囲を固める近衛騎士たちも、武装してヴォルフリートとクララを警護していた。


 困惑するステファン王太子が、クララに告げる。


「なぜお前がヴォルフリート殿下と共に居る」


 クララは華やかな笑顔で応える。


「あら? ステファン殿下がそれを仰るの? 婚約者でもない子爵令嬢と共に居る、殿下が」


 クスクスと笑うクララに、気まずそうにステファン王太子が応える。


「……お前は私の婚約者、それを忘れたのか」


「婚約者? なんのことでしょう?

 それは先日、破棄条項を満たしたので破談となりましたわ。

 もうお忘れですの?」


 慌てたステファン王太子がクララに声を上げる。


「何のことだ?! 破談だと?!」


 クララがニッコリと微笑んだ。


「ええ、破談ですわ。

 一か月前、殿下が破棄条項の追加に署名してくださったではありませんか。

 もうお忘れになったの?」


 ステファン王太子の脳裏に、一か月前の記憶が蘇ってくる。


 ここ数か月、何度も執務室にやって来ては、アンナマリーとの蜜月の時間を邪魔しては署名を求められていた。


 ――まさか、その中に?!


 クララが懐から一枚の書類を取り出し、広げてみせた。


「婚約契約書の写しです。ここをご覧ください。

 『不義密通は即刻婚約破棄とみなす』と、確かに追記されておりますよね?

 そもそもこんな当たり前の条項が漏れて居るなんて、おかしな話なのですけれど」


 ステファン王太子が慌てて声を上げる。


「そんな書類、知らん! 知らんぞ! 無効だ!」


「あらあら、王太子たるもの、署名をなさるなら中身にもきちんとお目を通されるべきですわよ?

 まさか中身も見ずに署名だけしてらした、なんて言いませんわよね?」


 ステファン王太子が悔しさで歯を食いしばった。


 彼とアンナマリーの不義密通は、王宮では暗黙の事実。


 婚前交渉、しかも未成年に手を出すなど、王家の恥以外の何物でもない。


 そんなステファン王太子の性格を先読みした国王が、婚約契約から敢えて不義密通の条項を抜いた事など、説明されなくても察せるというものだ。


 国王と王妃が緊張して場を見守る中、クララが朗々と告げる。


「それと我がシャッテンハイム辺境伯家及び周辺領主たちは、隣国アイゼンシュラークに忠誠を誓うことに決めました。

 現在アイゼンシュラークの軍が王都を目指して進軍中ですの。

 各地の領主たちも呼応して、王都に挙兵している頃ですわ。

 そのような最中に夜会を開くなど、ステファン殿下は実に大物ですわね」


 国王が蒼白になって叫ぶ。


「それは真か!」


 クララが国王に向かってニコリと微笑んだ。


「私、嘘は申しませんわ。

 今この場で降伏を受け入れるなら、陛下たちの命だけは見逃すという約束をヴォルフリート殿下と結んでおりますの。

 明日の夜までには、この王都は五万の兵に囲まれますけれど、いかがなさいますか」


 言葉を失った国王に、ヴォルフリート王太子が告げる。


「既にこの国の貴族たち、そのほとんどは交渉が終わっている。

 残るは王族派閥の貴族のみ。

 彼らだけでは、我が軍を抑えきれまい。

 ――返事は如何様にする? ゴルデネヴィント国王よ」


 国王が、なんとか言葉を絞り出す。


「なぜ、このようなことを」


 クララがおかしそうに応える。


「あら、まだおわかりにならないの?

 ステファン殿下にお任せしていては、国民が不幸になるだけ。

 殿下を放置なさる陛下も同罪ですわ。

 それでしたら、より優れた為政者であるヴォルフリート殿下に治めてもらう方が、民のためでしょう」


 静かに、しかし強かに微笑むクララを見て、国王ががっくりとうなだれた。


「……わかった、降伏を受け入れよう」


 周囲に居た国王の側近たちが、国王と王妃を拘束していく。


 困惑するステファン王太子が、慌てて声を上げる。


「私はどうなるのだ!」


 クララがニコリと微笑んで応える。


「一人くらいは見せしめの処刑が必要でしょう。

 王太子として、最後のご公務になりますわ。

 お一人では寂しいでしょうから、お隣の令嬢もお連れになるとよろしいのでは?」


 それまでステファン王太子の腕にしがみついていたアンナマリーが、慌てて彼から飛びのいていた。


「嫌よ! こんな男と一緒に処刑なんて、冗談じゃないわ!」


「アンナマリー?!」


 嫌悪を隠さぬアンナマリーの表情に、ステファン王太子が愕然となっていた。


 クララがにこやかに告げる。


「あらあら、最後に仲たがいだなんてみっともないですわよ?

 心配なさらずとも、きちんと添い遂げさせて差し上げますわ」


 周囲の騎士たちが、ステファン王太子とアンナマリーを拘束していく。


 ヴォルフリート王太子が「その醜悪な者たちを連れていけ!」と声を上げると、騎士たちはステファン王太子たちを牢屋に向けて連れていった。


 夜会会場ではあちこちで、王族派の貴族たちが次々と衛兵に取り押さえられていく。


 クララが小さく息をついて告げる。


「これで、ようやく一仕事終わりましたわね」


 ヴォルフリート王太子がクララの肩を抱いて告げる。


「本当に良かったのですか、祖国を裏切って」


「先に裏切ったのはステファン王太子と国王よ?

 私はその報復をしてみせただけ。

 ――ヴォルフリート殿下は、私を裏切ったりはなさいませんわよね?」


 荘厳な花のように微笑むクララに、ヴォルフリート王太子がニヤリと不敵に微笑んだ。


「もちろんですとも。あなたを一生愛し続けると誓います」


 クララが満足気にニコリと微笑んだ。


「では、問題ありませんわ。

 私は民衆が幸せになるなら、為政者が誰であろうと構わないと思ってますの。

 ですからヴォルフリート殿下には、良き為政者であって頂きたいものですわね」


「ええ、努力します」





 翌朝、ゴルデネヴィント王国は隣国アイゼンシュラークに降伏し、領土を明け渡した。


 アイゼンシュラークの王太子は新たに元ゴルデネヴィントのシャッテンハイム辺境伯令嬢クララを妃として迎え、後に王位に就いた。


 彼の治世は安定し、アイゼンシュラークは近隣でも強国として数えられるほど栄えたという。


 その傍らには常に王妃が美しい花のように微笑んでいて、国民に広く愛されたとも伝えられる。

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