・夕刻、ほろ酔いの参加申請 - 若弟子、師匠と共に女中に叱られる -

 昼間からドンチャン騒ぎを起こしてしまった不良当主イーラジュは、新参者のクルシュと共にこっぴどく女中さんに叱られた。


「イーラジュ様ッッ、貴方は今何歳ですかっっ!!」

「ろ、64に、なるぜ……?」


 私たちは素っ裸のまま、厨房の土間に正座させられた……。

 女中さんは小柄ではあるが若く可憐でしっかり者の女性で、私は心の底から自分が恥ずかしくなった……。


「64にもなるお爺さんがっ、若弟子と裸で廊下で寝ていただなんてっ、世間様に知られたらどう言い訳するおつもりですかっ!!」

「そう堅いこと言うなよぉ、ココロォ……?」


「どうしてイーラジュ様はちょっと目を離すとこうなのですかっっ!! 自分がお爺さんなのをもう少し自覚して下さい!!」


 なかなかどうして当主想いのいい女中さんだった。

 そんな人に最悪のファーストコンタクトをしてしまった私は不幸だった……。


 私は股間のモノの正座で包み隠しながら、服を着させてもらえない羞恥に打ち震えた。


「おいっ、お前からもなんか反論しろ……っ、俺の弟子になったんだろぉっ!?」

「こ、こっちに振るな……っっ」


「男らしくガツンと言ってやれっ! 男は外でも中でも飲まずにはいられねーんだ! ってよっ!」


 全裸の私は怒れる女中に見下ろされた。

 まるで日本人形のように綺麗な、長く切りそろえられた黒髪が魅力的な女性だった。


 こちらの世界の私は女好きである。

 美しい女性に嫌われるのは、ただそれだけで堪えた。


「イ、イーラジュ様は、私の面接のために酒宴を開いて下さったのだ。この件は、イーラジュ様の深いお考えがあっての――」

「いつものことなんですっ!!」


「は…………?」

「隙あらばドンチャン騒ぎ、貴方はお酒を飲む出汁にされただけですっっ!!」


「そ、それは申し訳ない……」

「降参がはえーだろっ、おいっ!? 男ならもっとふんぞり返りやがれやっ!?」


 正座でココロさんに縮こまっているアンタには言われたくない……。


「ココロさん、この度は大変申し訳ございませんでした、このクルシュ、心よりおわび申し上げます。しかしながらして――」

「おおっ、言ってやれクルシュ!!」


「私はこれから、竜将大会の参加申請に向かわねばなりませんので……」

「おいこらっ?! おめぇ師匠を見捨てて逃げる気かぁっ!?」


「ココロさん、私はアイツに無理矢理酒を飲まされて、理性を失ってしまっていました。あまつさえ、大変お見苦しいモノを見せてしまい、まことに申し訳ない……」

「てめぇっっ?!」


 どうやら屋敷の真の支配者はこの女中のようだ。

 私はイーラジュを――イーラジュ様を切り捨てた。


「そ、それはいいのです……っ! わ、わかりました、次からはイーラジュ様の口車に乗せられないよう、注意して下さいね……?」

「はい、肝に誓います!」


 ふぅ、助かったようだ……。

 私は内股で立ち上がり、よちよちのひよこ歩きで危険地帯から逃亡した。


「おい……見えてんぞ……」

「はっ?! こ、これは申し訳ないっっ!」

「た、たぬき……」


 たぬき……?

 ああ、信楽焼きの……。


 私は鎧と衣服を身に着けると、自慢の刀を腰に吊して屋敷を出た。

 言わばこの刀は現代で言うところのランボルギーニだ。

 所得税のかからない異世界万歳だった。

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