・夕刻、ほろ酔いの参加申請 - 大会受付嬢は黒バニー -

 酒の残ったほろ酔い歩きでキョウの都を歩いた。

 キョウは様々な文化様式が混じる町で、イーラジュ様がおわす中央区は和風、あるいは中華風の建築様式が目立つ。


 私はふらつく足取りで、時代劇にあるような水路沿いのオシャンティな通りをねり歩き、南部にある博打屋に足を運んだ。

 その公営博打場こそ、竜将大会の受付会場そのものであった。


 管理できないなら賭博も国営にしてしまえと、聖帝は考えたのだろう。

 ここから少し通りを外れれば、国営の遊郭もあるとホスロー殿から聞いている。


「ククルクルスのー、クルシュさんですねー♪」

「おう、上京したばかりのおのぼりさんだ」


 大会受付の女性は黒ウサギだった。

 黒ウサギをイメージした、巨乳のバニーさんが大会受付嬢だった。


 この昭和から令和に至ってもなお根強い人気を持つ古い趣味……。

 やはり聖帝は転生者なのだろうか……。


「ではー、スキルをあらためさせていただいてー、よろしいでしょうかー?」

「別にいいけど、なんでだ?」


 この世界にはスキルと呼ばれるものがある。

 大半の場合、自動的に発動し、人々の能力を無自覚に高めてくれる。


 言わば可視化された才能のようなものだろうか。

 人事がやりやすい反面、育成が疎かになるため私は過度に重視しない。


「それはー、マッチングの参考にするためだそうですよー♪」

「八百長のためじゃねーだろなー? しょうがねぇ、好きにしろよ」


「ではー、お手をどうぞー♪」

「手……? こうか?」


「はい、チクリ♪」

「痛っっ?!!」


 受付に変な器具で手首を刺された。

 点のような出血が肌に浮かび、受付は器具を操作した。


 それは私の知っている魔法式のスキル鑑定ではなかった。

 もっと医学寄りか何かの、SFの世界の機械だった。

 器具はホログラムを浮かび上がらせ、膨大な文字列を空中にたれ流した。


 ITにあまり詳しくない私でも、その映像がバグっていることは見れば明白だった。

 文字が幾重にも重なり、解読不能のバグ画面になっていた。


「まあ、まあ、まあー……!」

「それ、故障か?」


「はいー、故障かもしれませんねー♪」


 笑顔を絶やさない受付はホログラムを消して、私に1枚の青いコインを渡した。

 コインには5桁の番号がふられていた。


「クルシュ様の竜将大会予選への参加を、正式に受理いたしましたー♪ こちらはー、参加票になりまーす♪」

「ふーん……」


 鏡のように磨かれた美しいコインだ。

 鋳造のようだが、竜を模したデザインは見事の一言だった。


 文化力、技術力、経済力。

 全てにおいてこの国は祖国ククルクルスを超越していた。


「あ、うっかりしていましたー。お住まいをうかがっても、よろしいでしょうかー?」

「まだ宿は借りてねーんだ。……住所、どうしても必要か?」


「はいー、どうしてもー、今すぐ必要なんですよー♪ あ、アイスティー、飲んで行きませんかー?」

「アイスティー……? なぜ、急にそんな話を?」


「お酒の匂いがします。水分補給、していきましょー? ねっ、ねーっ?」


 セクシーなお姉さんに酒臭いと言われて、私は恥ずかしくなった。

 確かにまあ、今の私は酒臭い。だが……。


「止めとく」


 そのアイスティーがタダとは限らない。


「そんなこと言わないで飲みましょうよーっ、お客さーんっ!」

「その姿で言われるとな……」


 まるでいかがわしい店に迷い込んでしまったかのようだ。

 黒ウサギのお姉さんは胸の谷間を寄せて私に迫った。


 私は女性が好きだ。

 実を言うと、バニーさんも嫌いではない……。

 もとい、私はバニーさんが非常にお好きである。


「それ、タダか……?」

「うふふふっ、タダでーすっ、タダに決まってまーす♪」


「けどお姉さん、なんか怪しくないか……?」


 なぜこんな私に、そんなにドリンクを飲ませたいのか、そこがわからない。


「怪しくないでーす♪ さあー、VIPルームに1名様ご案なーいっ♪」

「お、おいっ、その扉の先っ、ボッタクリバーだったしないだろな……っ?!」


「ただのバックヤードですよー♪ 貴方だけが入れる、秘密の空間です……♪」

「うさんくさ……」


 扉の先は本当にただのバックヤードだった。

 華やかな公営賭博場の雰囲気とは正反対の、あまり片付け上手ではない管理者を連想させられる空間だった。


 私はそこで冷たいお茶をいただきながら、渡された書類にイーラジュ様のお屋敷を住所として書き記した。


「まあ、イーラジュ様♪ お茶目でかわいいお爺ちゃんですよねぇー♪」

「お茶目? あれはそんなかわいいもんじゃねーよ……」


「でもキョウの人たちはー、みーんな、イーラジュ様が大好きなんですよー♪」

「おう、なんとなくそれはわかるぜ。ケチとは無縁の男だ。愛想もいい。威張り散らさないところも付き合いやすい」


「そうですよねっ、そうですよねーっ♪ お尻触ってきたりしますけどー♪」

「やっぱ最悪だ、アイツ……」


 受付の黒ウサギさんと少し話した。

 無事入門できたと、ティティスとホスロー殿に報告するとしよう。


 今日、私はまた、大きな第一歩を踏み出したのだった。

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