・最強を目指していざキョウへ - ド素人、入洛す -

 世界各地の諸侯を従えるヤツカハギの支配者、聖帝ジントは諸国の民に神と崇められている。

 この聖帝ジント、そんじゃそこらのルイ14世やファラオたちとは格が違う。


 聖帝ジントは平和の守護者にして、願いを叶えてくれる奇跡の神である。

 聖帝は功績を上げた家臣や、竜将大会の優勝者のありとあらゆる願いを、今日までその奇跡の手で叶えてきた。


 巨万の富。若返り。美容整形。性転換。美食美酒。大病の治癒。

 竜将大会に優勝すれば、死者蘇生をのぞくありとあらゆる願いが叶う。

 また入賞でも、聖帝ジントは小さな願いを叶えてくれるという。


「ねーっ、すごいでしょ聖帝様! マヂ神だから、あのお方っ!」

「お、おう……」


 それが敵対国の将軍すらお忍びで参加してくる、竜将大会の報酬だ。

 さらに大会は予選を突破するだけでも金20の賞金を出すとあって、毎年5000人を超える参加者が都に集まってくるそうだった。


 彼女曰く。


「その顔信じてないでしょー!? ホントにホントなんだからーっ!」

「だから、知ってるって言ってんだろ……」


「ま、いいけどねー。優勝すれば嫌でもわかることだしっ。あ、優勝したら何叶えてもらうのっ!?」

「俺が欲しいのは最強の座だ。願いはどうでも――」


「やっぱり信じてないんだーっ!!」

「この女、意外とめんどくせぇー……」


 ここは大陸最大の都キョウ。

 私は今、ティティスの父親が所有する屋敷にいる。


「口に出すなぁー、そういうことーっ! あっ、お父様、今日はお早いのですね……」


 早い夕飯をごちそうになっていると、そこに当主が姿を現した。

 どこかで見覚えのある顔だった。


「貴方がクルシュ殿ですか」

「そうです」


「息子たちを刺客から守ってくれたそうですね。私はこの屋敷のホスロー――ん? その顔、どこかでお会いしましたかな……?」

「私も同じように思っていました。ご当主様、我が祖国ククルクルスにおいでになったことは?」


 ティティスが私の豹変にギョッとした。

 一方でその父親ホスローは両手を叩いて、何か思い出したようだった。


「ティティス、なぜククルクルスの国王補佐官殿がここにおられるのだ?」

「あらお父様、ついに耄碌されましたか? クルシュにそんな細かいお仕事ができるわけがありませんわ」


 つくづく失礼な子だ。

 だが半分は同意しよう。

 私はもう二度と、あんな細かい仕事はしたくない。


「覚えておいででしたか。通商での交渉で以前お会いしましたね」

「え……? え、ええええーっっ?!!」


 私は祖国ククルクルスの国王補佐官だった。


「ほれ見なさい、ティティス、父の言うことが正しかったではないか」

「ちょ……ちょっと悪い冗談は止めてよ、クルシュ!! ガチで混乱するんですけどーっ!?」


「補佐官殿、娘がご迷惑をかけたようですね」

「いや、ティティスは悪くない。もう辞めたんだ、補佐官は」


 あえて言葉を崩して自己主張した。


「なんと……お国で何かございましたか?」

「大したことではありません。文官の頂点を極めたその瞬間に、急に……全てがどうでもよくなったのです」


 私がそう答えると、驚きながらも当主は納得してくれた。

 ティティスだけがポカーンと口を開けて俺を見ていた。


「面白い決断をされますな。私も当主の座など蹴り捨てて、漁師にでもなりたくなることがございます」

「はは、漁師もいいですね。私は武人になって、大陸最強を目指すことにしました」


「それは男らしい。……となると、どこかの道場へのあてはあるのですかな?」

「いえ全く。私はククルクルス人。キョウにコネなど何もありませんので」


「では私がお力になりましょう。あわや息子と、娘と、家の未来。全てを失うところでした。本当に無事でよかった……」


 彼はいい父親だった。

 娘の背中に腕を回して、涙ぐんだ顔で鼻をすすった。

 しかし親の心子知らずの法則はこの世界でも健在だった。


「お父様、イーラジュ様の道場にクルシュを紹介しましょ! あたし、クルシュに金50を賭けるっ!」

「私もイーラジュ様を紹介するつもりだったよ。よろしい、ならば私は倍の金100を賭けるとしよう」


 イーラジュ。どこかで聞いたことのある名だ。

 そしてこの親子、揃いも揃って、とんだバクチ好きなのだろうか……?


「どんな人なのですか?」

「この国で一番強くて、大ざっぱなおっさん!」

「子供たちを救ってくれたお礼です、よろしければ、私から弟子入りの話を取り付けましょう」


「願ったり叶ったりです。ホスロー殿、どうかよろしくお願いいたします」


 最強で大ざっぱと名高き、イーラジュ様を紹介してもらうことになった。

 いきなり最強に師事できるなんて私はついている。

 まだ何もしていないのに、最強の座がぐっと近付いたかのように感じられた。

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