半端者 エピソード2
この世界において人間は良いご身分じゃない。
人間は、魔法が使えない。それなのにこの世界は魔法を中心に周り、魔法が使えることが前提で作られている。この世界で魔法が使えるのは、ロクザンと呼ばれる種族だけだ。魔法が使えるロクザンたちは人間を下に見て生きている。
ロクザンの元では人間は格下で、媚び諂ってなきゃ生きていけない。理不尽に虐げられ、罵声を浴びせられる。そんなのが日常茶飯事の毎日だ。
俺たちヴォイドはこの世界を侵略する。それはこちらの世界だけ栄えているのがずるいから。それももちろんある。でも一番は、ロクザンに復讐するため、人間を呪うためだ。俺たちが人間だった頃は敵わなかったロクザンに、対抗できるだけの力を今は持っている。そして、俺たちを「失敗作」として捨てた研究者を含む、実験体にされる俺たちを見て見ぬふりをした人間たちを呪ってやる。
ヴォイドは誰しもがそんな憎しみを抱えている。
「ほんと、気に食わない…」
俺たちはロクザンが嫌いだ。
でも特に騎士団の連中は許せなかった。騎士団は正義なんて言うお飾りを掲げ、民を守るとか大嘘をこいている。
人間は奴隷。下等生物。我々のおかげで生きていられるんだ。ロクザンに尽くせ。
彼らが何度そう言っているのを聞いたか分からない。
緊急時でもあいつらは『魔法が使えて未来を担う』ロクザンの救出を優先し、『魔法も使えない社会の荷物』である人間の救助は二の次だ。
俺はそんな場面を何度も見てきたし、先日の戦いでだって騎士団長様には
『魔法騎士団を甘く見るな。我々は貴様らのような下等生物の下に倒れなどしない』
なんて言われた。何がロクザンも人間も平等に守るだ。守ってるのはロクザンだけだろ、と思う。
「リゼン、なんか言った?」
「あ、いや何も」
思わず口から零れていた愚痴に焦る。双子さんが昔を思い出して遊ぶ今を邪魔したくない。
「リゼンも来なよ。遊ぼう」
「キてキてー!!!リゼーン!!」
「はいはい」
昔はたまに、こうして一緒に遊んだものだ。双子さんがまだヴォイドになる前のこと、まだ二人が人間だった時のこと。
もう二百年くらい前になるのかな。俺はもうヴォイドになってたけど、まだ異界に閉じ込められるなんてことはなく、ヴォイドもこの世界で生きていた時代だ。
「懐かしいな」
砂浜で遊んでいるだけで懐かしいと感じる。
俺と双子さんが出会ったのは約二百年前のこの海だ。今と同じ、真っ暗な夜中の海で遊んでいる人間の子供二人を、たまたま通りかかった俺が見つけて話しかけた。真夜中の海で遊ぶ子供なんてまともじゃない。
家はどうしたとか、親はどうしたとか、当時からロクザンと人間への恨みで荒んでいた俺でさえ心配することだった。
案の定、双子さんはまともじゃなかったし、家も親もまともじゃなかった。今でこそ、お互いが全て、って感じで一心同体な雰囲気の二人だけど、当時は離れ離れで暮らしていたらしい。それも、自分が双子だと知らずに。
ロクザンに取り入ったおかげで成功して、金持ちになった家の坊ちゃんとして育ったギルスと、そのメイドの娘として育ったギビヤ。双方の親たちの間で隠し子やら不倫やら、いろいろ問題があって、ギルスの家の裏につくロクザンが、生まれた双子を引き離した。でもこの性格のギビヤだ。怒られるようなことを平気で仕出かす彼女はある日、母親をつけてギルスの家までやって来たことがあったらしい。
そこでギルスと出会い、二人はお互いの見た目が似ていることが面白くなって、それからこっそりと遊ぶようになったと聞いた。
「わーい!!!!」
「ちょっとギビヤ、あんまり深い方に行っちゃ危ないって」
ギビヤが海にざぶざぶと入って行くのを止めるようにギルスも後を追う。
「双子さん、溺れたりしないでくださいよー…」
ヴォイドになった二人は、いくら子供の姿とはいえちょっとやそっとじゃ死なない体になった。人間よりも耐性が高く、頑丈な体だ。でも正直、双子さんが海に入っているのは見たくない。あの日の記憶が蘇るから。
偶然出会って、こっそり遊ぶようになった二人は、もっと堂々と一緒に遊べる場所を求めた。そして思いついたのは夜に家を抜け出すこと。
ギビヤもギルスも真夜中に家を抜け出して、この海で遊んだ。そこにいつの日か俺も加わって、俺が見守って、二人は遊ぶ、っていうお決まりの流れができた。
俺は海に行かない日もあったし、気が乗れば今みたいに一緒になって遊ぶ日もあった。そんな日常が過ぎていくごとに、二人は自分たちが双子であることに気づき始めていた。
双子なのに、一緒に生まれて来たのに、自分たちはどうして一緒にいられないのか。
どうしてこんなにコソコソと会わなければならないのか。
そんな疑問が増える中、ある日突然ギルスがボロボロになってここに来た。
どうやら父親がロクザンに反抗したらしく、上手くいっていた関係性は崩れ、魔法で家が壊されたという。そんなギルスを見て、ギビヤは手を差し伸べたらしい。
『イッショにシんじゃおうよ!』
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます