半端者 エピソード1

「リゼンー!!こっちだよ!!!」


「何してるの。早く来てよ、リゼン。ギビヤが転んだらどうするの」


とある夏の日の真夜中、俺は双子さんに連れられて海に来ていた。


「はいはい、分かってるよ」


俺たちこの世界を侵略しに来たのになぁ、なんて思いながらも、双子さんにはなぜか逆らえない。

まぁ、俺たちヴォイドがこっちの世界に来たからといって、何も毎日騎士団と争っているわけじゃない。向こうも向こうで俺たちを殺すために策を練ってるだろうし、何より先日起きた戦いで俺たちに傷を負わされた騎士たちの治療もあるだろう。

それに、せっかくこっちの世界に来たんだから遊びたい気持ちだって当然あるわけで。


「綺麗だなぁ」


外灯一つない真っ暗な真夜中の海を照らすのは月明かりだけ。

そんな月明かりが水面に降り立ち、揺れて光の道を作る。


「ウミだー!!タノしいね!!ギルス!!」


「はしゃぎすぎだよ、ギビヤ。ずぶ濡れになったらどうするの」


浅瀬で遊ぶ二人を見つめながら、ごつごつとした岩場に腰掛ける。

俺たちヴォイドが普段閉じ込められている世界は、荒廃している何もない世界だ。

ここみたいな海はないし、栄えた街もない。瓦礫だらけの世界。

でもそこに閉じ込められることになったのは俺たちのせいじゃない、ってことだけは言いたくなる。

俺たちは皆、人間のせいで『悪者』にされたんだ。


「ここでアソぶのナツかしいねー!!」


「そうだね。夜にこの海で遊ぶのはいつぶりだろ」


「ねーミて!!アハハ!!リゼンってばあのトキとおんなじところにスワってるー!!」


「ほんとだ。相変わらずだな、リゼン」


「ここは俺の特等席なんで。それよりどーです?思い出の海は」


「タノしー!!!」


「いろいろ思い出すよ。ボクとギビヤのこと」


「でしょーね。俺も思い出すかな、あの時の双子さんのこと」


ヴォイドは人間が生み出した、いわゆる『失敗作』だ。

どこぞのイカれた研究者によって行われた人体実験の餌食。

だから俺たちは皆、ヴォイドになる前の『過去』を持ってる。

今目の前ではしゃぐ幼い双子も、もちろん俺も。

皆、元々は人間だったんだ。

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