憧れの人 エピソード4
剣と鎌がぶつかる音が響く。
遠距離戦はリゼンさんの大鎌が有利だが、近距離戦はゾルさんの剣が有利だ。距離を詰めてしまえばゾルさんの勝利は決まる。
ゾルさんは何百人といる魔法騎士団の団長だ。剣の腕前は誰にも負けない。
でも、リゼンさんも強いのは事実。あの好き勝手するヴォイドたちをまとめているだけはある腕前だった。
「ぐ…う…」
「ゾ、ゾルさん!!」
どうして?ゾルさんが押されてる。あんなに強いのに。
リゼンさんよりも絶対に、ゾルさんの方が強いのに。
「ぼ、僕も戦います!」
懐にはいつも緊急用の短剣を忍ばせている。
それを取り出して戦おうとした。
「来るな馬鹿者!!お前は足手纏いだ!」
怒鳴るようにして放たれた言葉は、恐怖とショックとでとても重かった。
足手纏い。前回の負傷を考えるとその通りだ。
ゾルさんはいつでも正しい。僕はそんなゾルさんに憧れてる。
でも、何もしないなんて。戦えないけど、もう昔とは違う。僕だって騎士団員だ。
でも足手纏いも事実。
「団長命令だ!!退け!!!」
「ゾルさん…」
「おっと。行かせないから」
命令、という言葉に圧倒されて踵を返そうとした瞬間、リゼンさんに行く手を阻まれた。
「カルネラ!!!」
リゼンさんは僕の肩を抱き、ゾルさんに刃を向けた。
「ねぇ、団長さん。あんた手加減でもしてんの?」
「は?」
「やっぱ弱くなったよね。今までのあんたなら、俺に押されるとかありえないでしょ」
「押されてなどいない。下郎が調子に乗るな」
「あんた…そろそろ寿命なんだろ」
その一言に、ゾルさんの眉が動いた。
「じゅ、寿命ってどういうことですか」
「ロクザンが生きられる限界は五百年だ。あんたはもう終わりが近い。違う?」
「私の年齢など貴様が知るはずもない」
「知ってるよ。だって俺、あんたたちより年上だし。あんたが騎士団に入ったばかりの頃も、あんたが過ちを犯した過去も、全部知ってる」
「いい加減なことを。ヴォイドの命は三百年、そう研究者が言っていた。貴様が五百年以上生きているわけがない」
「俺、嘘はつかない主義なんだ。信じられないなら言ってあげようか?あんたのこと。きっと全部正しい情報だ」
「ヴォイドの分際でこの私の何が分かる。この失敗作、ロクザンの成り損ないが」
失敗作?成り損ない?どう言うことだかわけがわからないが、ゾルさんは知っているんだろう。
「ふざけたこと言うなよ!!たかが騎士団の団長、たかがロクザンってだけで!!」
ゾルさんの一言で豹変したリゼンさんは、反撃の隙を与えないほど猛攻する。
「ぐっ…!」
「あはは、ほら、また押されてるよ?どうしたのさ。もしかして、ただ単に弱くなっただけだったりして」
「このっ…!レーヴ!」
「はは、アフィアルティス」
光と闇の力はぶつかり合い、二人の魔法陣が重なる。
じゃり、とゾルさんの靴がアスファルトを滑った。
「ねぇ。こんなに弱いから、あの人も守れなかったんじゃないの?」
「!?貴様…!」
「あの人?」
ゾルさんの反応にリゼンさんが微笑みを浮かべると同時に、ゾルさんの体が後ずさる。
リゼンさんの使う呪いの力の威力が強すぎるのだ。
「あはは、みっともないなぁ。動揺しちゃったんだ?」
大切な人だったんだもんね、と笑うリゼンさんを睨むゾルさんの瞳には、
憎しみや後悔、怒りが滲んでいた。
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