プロローグ~普通を求めたい僕と唯一の妹の幼少期~

りあ

とあるエピソード

今は日に2度、世界が朱く染まる時間。

陽が昇る朝日は妹が好きな時間。

陽が沈む夕日は僕が好きな時間。

今は僕が好きな時間。


家の近くの公園で2つ下の妹とブランコをして遊んでいた。

小学校に入学した僕は妹と遊べる時間が減った。

だから学校から帰ってきてから僕たちは遊んでいた。


妹が楽しそうに笑う顔が好き。

僕より活発な姿が好き。

数年後にブラコンというと知った。




僕たちを遠巻きに見守るように黒服の人たちが数人いる。

おじい様がこの国にとって大切な立場にいるから僕たちも守っているらしい。

僕にはよくわからない事情があるんだと思う。


隣で僕より勢いよくブランコを漕ぐ妹を視線に端に入れながら僕もブランコを楽しむ。

いきなり、キキーーーッという車のブレーキ音と共に大きな車が公園に入ってきた。

黒服の人たちと僕たちの間に車を乱暴に止めると、ドアが開いて物騒な格好の男たちが2人降りてきた。

最悪なことに車は妹側に止まったため、最初に妹が腕を掴まれ車に連れ込まれそうになる。

僕より少し身長が小さい妹は大人の男の力でそのまま車の中に投げ入れられる。


降りてきた男たちは次に僕に狙いを定めた。





その時、妹を車に投げ入れた男は脇から大量の血を流しながらその場に片膝をついた。

降りてきていたもう1人の男は戸惑いながらも勢いで僕を捕まえようと手を伸ばしてきた。


その直後。


車の中から悲鳴が上がる。

最初に男たちが降りてくるとき、車の中に後部座席に1人と助手席と運転席の計3人が残っている様子が見えた。

後部座席のドアを開けたまま車が急にバックを始めた。

そのまま逃げようとしている車が急に止まった。


……ガチャ。


運転席のドアが開き、軽やかに妹が飛び降り優雅に地に足を付けた。

その手には折り畳み式のナイフを握っていた。

刃が5cmほどで赤く汚れていた。





僕のそばにいる男は黒服の人たちが取り押さえた。

妹は無表情かつ純粋無垢な瞳で、ナイフを運転席の人の服で拭くと折りたたんで服のどこかにしまった。

僕は自分の不甲斐なさにため息をつきながら妹に近寄ると車の中を見ながら強く抱きしめた。


後部座席にいた男はおもらしより多い赤い液体が染み出ている内太ももを押さえて悶えている。

助手席にいた男は力なく窓に寄りかかり動かない。

運転席の男はよだれを垂らしながらハンドルに体を預けるように動かない。


僕は慌ててやってきた黒服の人たちに「この人たちが死ぬ前に早く救急車を呼んでください」と伝えた。

妹は僕の腕の中でかすかに震え、泣いていた。





妹がまだ小さい子供であること、連れ去ろうとした男たちがすぐに病院に連れていかれて誰も死ななかったことから正当防衛が認められた。

警察の人にはとても叱られたけど怖がっている僕たちを見てほどほどで帰ってくれた。

妹の折り畳み式ナイフは取り上げられた。


その夜はいつものように妹と一緒に寝た。

僕は『他の人を妹から守れなかった』ことを悔やんだ。


僕たちは物心つく前から父さんから度を越した戦闘術を叩き込まれた。

それは父さんが僕たちと一緒にいることができないから。

おじい様のせいで命を狙われるかもしれないから。

実際に父さんは遠い場所にいるし、今日の男たちも僕たちがおじい様の孫だから狙ったらしい。





活発な妹は僕よりよっぽど強くて、悔しかった。

その悔しさは、父さんがおじい様の元に僕たちを置いていくときに妹を守らないといけない義務感に変わった。

妹は戦い方を知っていても正しいことを知らない。

どうして傷つけてはいけないのか、どうして殺してはいけないのか。

だから僕は『他の人を妹から守る』ことを決めた。


今は日に2度、世界が朱く染まる時間。

陽が昇る朝日は妹が好きな時間。

陽が沈む夕日は僕が好きな時間。

今は妹が好きな時間。


僕は目覚めた妹に僕の折り畳み式ナイフを渡した。

僕より妹が持っていたほうが、絶対に僕たちは生き残りやすくなる。

妹のことはこれまで以上に黒服の人たちが守ってくれるはず。

それが失敗したときに僕は妹から他の人を守る。

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 プロローグ~普通を求めたい僕と唯一の妹の幼少期~ りあ @raral_R

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