心に龍が宿る夜
嵐 けだもの
心に龍が宿る夜
平等は面白くない。かと言って不平等も面白くない。
そんな風に思った夜であった。
ここはシタクウカン。気がつくと俺は逆らえない本能で周りの悪魔たちを虐殺し、食らいついていた。
弱い。弱い。どいつも弱い。
周りの悪魔はどいつも知性を感じられず、生まれてすぐ俺や他の強者に食べられる、脆く、儚い存在。
俺は興味本位でこの空間の中心部を目指した。
ここはどこも血生臭く、弱者が損をし、強者が得をする世界。単純すぎて変化がなくとても退屈だ。
しかし、ある日この世界の面白さに気づく。
俺はいつも通り腹が減ってきたため、ある悪魔に喧嘩を売る。その悪魔は妙に落ち着いていた。普段見る悪魔はよだれを垂らし、目はラリっており、知性を感じられなかった。
その悪魔の目が七色に光る。途端、俺は全く動けなくなり、そいつにボコボコにされた。
やっぱりこの世界は面白くなかった。強い奴が得をして、弱い奴が損をする。そこに変化はなかった。
俺はそっと目を閉じた。噛まれた肩は肉が見えるほどえぐれ、強い痛みを伴った。
その瞬間、殺されることが癪だと感じた。
なぜかは偶然そう思ったとしか言えないが、確かに思った。
えぐれた右手を食べるのに夢中の悪魔を俺は左手で後頭部を一撃殴った。その瞬間悪魔は狼狽え、悶絶する。そしてこちらを睨み、再度目を七色に光らせようとした。俺はそれに気づき咄嗟に目を瞑る。するとどうだろう。体が動く。俺は目を瞑りながら、相手の気配だけを感じて相手を左手で殴り殺した。
そしてそいつの肉を食う。今までの数倍美味だった。ここで俺は気づいた。
変化。変化はこの血生臭い世界を面白くする。ずっと同じだから退屈なのだと。その瞬間世界は明るくなった気がした。
変化を一番感じられること。それはこの世界の中心に向かうこと。俺は夢見た少女のように無我夢中で中心を目指し、歩き出した。
そこから数年経ち昔の数倍強くなり、俺は中心に着く。そこにあった景色はいつもと変わらぬ退屈な血生臭い匂いと天まで続く棒。そして何やら口から互いに音を出し合う不気味な悪魔が数名。俺は今までで一番ワクワクした。ついにここまで来たのだと。そして俺はその悪魔たちにいつも通り喧嘩を売り戦った。
そこで俺は血祭りにあげられた。そして俺は気づいた。ここまで来ても強い奴が得をし、弱い奴が損をする。変化なんてなかった。きっとこの天まで続く棒を登っても血生臭い匂いがするだけ。俺は目を瞑って気が遠くなる痛みの中、この世界にお別れを言った。
"どうしようもなくつまらない世界さよなら"と。
気がつくとまだ血生臭い世界にいた。希望なんてない。退屈だ。ここまで来ても変化はなかった。
意識を目の前の悪魔に集中させるとその悪魔は俺に音を浴びせてきた。この日から俺はこの行為を永遠に浴びせられる、俺からしたら大地獄の変化のない世界へ変貌した。
しかしあることに気づく。この悪魔は俺に"モロトモ"という音を頻繁に使ってくる。なんなんだ。気持ち悪い。そこからしばらくこの拷問を味わっていると段々と法則性が見え出した。この音たちは無作為に出されているわけではない。ここで俺は"言葉"という存在を知る。この音を通じて相手に伝えたいことを伝えることが可能らしい。これは今までこのつまらない世界を生きてきた中で一番の変化であった。
言葉で一人一人名称をつけているらしい。それを"名"と呼んでいる。俺の名はモロトモ。そしてこれを教えてくれたこいつはキョテイと呼ばれているらしい。それに気づいた日からたくさんのことを学んだ。そこに一つ興味深い話があった。天の棒の先の話である。この上にはテンシと呼ばれるものがいるらしい。そしてそいつらはどんな悪魔よりも美味らしい。俺にとってここの血生臭さは退屈の象徴であった。退屈とは変化の逆を指す。
そして俺は言葉を巧みに操ることを可能にし、上に行くことを決めた。
しかし、上に行こうとすればすぐ行けるわけではなく、メツマとかなんとか。まあ色々あり、不可能らしい。俺の人生は変化と普遍が交互にやってくる。面白いことが起きてもすぐさままた面白く無くなる。
しかし、今回も俺の大好きな"変化"が起こる。それはある岩が俺らの目の前に現れたことがきっかけであった。長髪の男性の彫刻が施されている不気味な岩はメツマを越えれるらしい。
そしてその事実が明らかになると初めて上に行くことを俺は任された。任せたのは言葉を教えてくれたキョテイが慕っている我らが王、元闇様直々の命であった。
俺はこの世界の"変化"が尽きるまで死なないと決めた。平等も不平等もつまらない。変化するから面白いのである。俺は龍が如く、どこまででも上に上がってみせる。俺の心の龍は天に向かって吠える。
心に龍が宿る夜 嵐 けだもの @shyce
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