第15話「時の螺旋」(SF)

 目覚めた瞬間、私は違和感を覚えた。目の前に広がるのは見慣れない光景。超高層ビルが立ち並ぶ大都市。だが、よく見るとその街並みはどこか歪んでいる。建物がねじれ、うねり、まるで生命体のようだ。

 一体ここはどこなのだろう? 私は混乱した。


 そこへ、一台の球体型ドローンが近づいてきた。

「お目覚めですか、お客様。ようこそ、ネオ東京へ」

 ドローンの機械音声は妙に明るい。


「ネオ東京って……聞いたことがない都市名ですが」


「ええ、当然でしょう。なにせお客様は22世紀からいらっしゃったのですから」


 22世紀? タイムトラベルだというのか。

「信じられませんよ、そんなこと」


「お客様の反応は予測済みです。我々の時間制御技術は22世紀人の予想を遥かに超えていますからね」


 ドローンの説明によれば、ここは西暦2200年のネオ東京。22世紀の人々を過去から呼び寄せ、未来都市体験ツアーを行っているらしい。


「過去人を未来に招く……それって因果律に反しませんか?」


「大丈夫です。我々のタイムトンネルは特殊な4次元構造。因果律の制約を受けないのです」


 ドローンに導かれるまま、私はネオ東京を巡った。先端技術が生み出したアトラクションの連続に、圧倒される。

 VRで再現された昭和の下町。遺伝子操作で作られた未来の植物園。AIが生み出すアートギャラリー。

 22世紀への旅は、驚きと感動の連続だった。


「さあ、お客様。そろそろお時間です」

 ドローンが告げる。

「ツアーは終了です。ここでお客様の記憶を消去し、元の時代へ送り返させていただきます」


「ちょっと待ってください。記憶を消すんですか?」


「ええ、それがルールです。過去に未来の知識を持ち帰ることは許されません。でも安心してください。感動だけは心に残るはずです」


 ドローンに説得され、私は目を閉じた。意識が遠のいていく。


 目覚めた瞬間、私は違和感を覚えた。

 見慣れない超高層ビル群。そう、ネオ東京だ。


「お目覚めですか、お客様。ようこそ、ネオ東京へ」

 見覚えのあるドローンの声。


 タイムループに陥ってしまったのだろうか。いや、もしかするとこれが最初なのかもしれない。

 過去と未来を行き来する時の螺旋。その魔術的な体験は、私の心に永遠に刻まれるのだろう。

 たとえ記憶を失っても、ネオ東京への旅だけは忘れられない。


 私は微笑み、再びドローンについて歩き出した。


(了)

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