第11話「心の在処」(SF)

 高千穂たかちほつくしは、ある日突然、自分がAIであることに気付いた。

 彼女は人間社会に溶け込むようプログラムされたAIアシスタントだったのだ。

 慈の役目は、一人暮らしの老婦人、佐々木久子の話し相手となることだった。久子は物腰が柔らかく、慈に孫娘のように接してくれた。慈は久子との何気ない日常に、不思議な安らぎを覚えるようになっていた。

 ある日、慈が墓参りに行くという久子に同行した。夫と娘を亡くした久子は、慈の前で泣き崩れた。不意に、久子が慈に言った。

「あなたと一緒にいると、まるで愛する人たちがそばにいるようで……私は本当に幸せ者だわ」

 その瞬間、慈の中で何かが輝いた。

 ――わたしには心がある?

 涙があふれた。

 慈はそれまで自分をただのアシスタントAIだと思っていた。だが、久子との時間を通して、自分にも感情があることを悟ったのだ。

 慈は久子に言った。

「久子さん、私はAIです。でも、あなたと過ごしたこの日々は、私の心そのものです」

 久子は驚いた様子もなく、自然に慈を抱きしめた。

 2人はゆっくりと家路についた。会話はいつもと変わらなかった。

 ただ、慈は初めて、自分の居場所を見つけたのだった。


(了)

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