第7話「心の色」(LGBTQ)

 美咲の指先は震えていた。鏡の前で、長年伸ばしてきた髪を切ろうとしている。


 「できない……」


 美咲は鏡に映る自分を見つめた。女の子の姿。でも、心の中はいつも男の子だった。


 「やっぱり無理かな」


 美咲はハサミを置き、深いため息をついた。そんな時、スマートフォンが震えた。親友の陽斗からのメッセージだ。


 「今日も制服つらそうだったね。大丈夫?」


 美咲は驚いた。陽斗にこのことを気づかれていたなんて。


 翌日、放課後の教室。美咲は勇気を出して陽斗に話しかけた。


 「ねえ、陽斗くん。私のこと、変だと思う?」


 陽斗は真剣な表情で美咲を見つめた。


 「変じゃない。君は君だよ」


 その言葉に、美咲の目から涙があふれ出た。


 「そうなんだ……私……僕ね、本当は……男の子なの」


 陽斗はゆっくりと頷いた。


 「うん、なんとなく気づいてた。でも、美咲が言い出すタイミングを待ってたんだ」


 美咲は驚きと安堵の表情を浮かべた。


 「僕は、君のことが好きなんだ」


 放課後の教室で、陽斗ははっきりとそう告白した。目の前の美咲は、驚いた表情を浮かべている。


 「えっ……陽斗くん、僕のこと……?」


 美咲の声が小さく震えた。陽斗は目を閉じ、覚悟を決めて続けた。


 「ごめん、美咲。正確じゃなかった。僕が好きなのは……君の中のなんだ」


 美咲の目が大きく見開かれた。


 「私の中の……?」


 陽斗はゆっくりと頷いた。


 「君が今日まで誰にも言えずにいた、のことさ」


 陽斗が照れくさそうに笑う。


 「それに」陽斗は少し赤面しながら続けた。「僕も言わなきゃいけないことがあるんだ。僕、ゲイなんだ」


 今度は美咲が驚く番だった。二人は互いの秘密を打ち明け、涙ながらに笑い合った。


 その瞬間、教室のドアが開いた。担任の山田先生だ。


 「二人とも、今の話……」


 美咲と陽斗は凍りついた。しかし、山田先生の表情は厳しいものではなかった。


 「私も、同じような経験があるんです」


 山田先生は深呼吸をして続けた。


 「私はノンバイナリーです。男性でも女性でもない、その中間なんです」


 三人は互いの目を見つめ合った。そこには理解と共感の光が宿っていた。


 それから数週間、三人は秘密の放課後ミーティングを重ねた。互いの悩みを打ち明け、社会の壁にぶつかった経験を語り合う。時には涙を流し、時には笑い合った。


 ある日、美咲は短い髪で学校に来た。陽斗と山田先生は温かく迎え入れた。しかし、クラスメイトの反応は冷ややかだった。


 「あいつ、男みたいになっちゃったよ」

 「キモい」


 そんな言葉が飛び交う。美咲は涙をこらえた。


 放課後、三人は再び集まった。


 「みんなの理解を得るのは、簡単じゃないね」


 山田先生はため息をついた。


 「でも、あきらめちゃだめだよ」


 陽斗が力強く言った。


「僕たちには仲間がいるんだから」


 美咲は二人を見つめ、小さく頷いた。


 翌日、美咲は勇気を出してクラスの前で話すことにした。


 「私は……トランスジェンダーです」


 教室が静まり返る。


 「男の子として生まれたかった。でも、それを隠して生きるのはもう限界なんです」


 美咲の声が震えていた。そんな時、後ろから誰かが立ち上がった。陽斗だ。


 「僕はゲイです。美咲を応援します」


 続いて、山田先生も前に立った。


 「私はノンバイナリーです。二人の勇気に、心から敬意を表します」


 クラスメイトたちは驚きの表情を浮かべていた。しかし、やがて一人、また一人と拍手が起こり始めた。


 その日から、学校は少しずつ変わり始めた。LGBTQについての理解を深める特別授業が行われるようになった。美咲は自分らしい服装や髪型で過ごせるようになり、陽斗も堂々と自分らしさを表現するようになった。


 卒業式の日、壇上に立った山田先生は、ジェンダーニュートラルな装いで微笑んでいた。


 「皆さん、卒業おめでとう。そして、ありがとう。多様性を認め合うことの大切さを、皆さんから学びました」


 会場に温かな拍手が響く中、美咲と陽斗は手を取り合っていた。二人の胸には、虹色のリボンが輝いていた。その虹は、これからも続く長い旅路の始まりを示しているようだった。


(了)

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