第4話「魔法使いと少年の約束」(ファンタジー)

 森の奥深くに、ひとりの老魔法使いが住んでいた。彼の名はゼラート。長い年月を経て築き上げた知識は、もはや無敵とも言えるほどだった。

 そんなゼラートのもとに、ある日一人の少年がやってきた。

 

「魔法使いさま、お願いがあります!」


 少年は息を切らせながら、必死に頭を下げた。


「私の村が、悪い魔物に荒らされているんです。どうかあなたの力で、魔物を退治してください!」


 だが老魔法使いは、悠然と首を横に振る。

 

「わしはもう、争いごとには関わらん。人間と魔物の戦いなど、わしには興味はないのだ」


 そう言い放つゼラートに、少年は食い下がった。


「お願いします、魔法使いさま! あなたの力がないと、村は滅びてしまいます!」


 少年の純真な瞳を見つめながら、ゼラートは考え込む。やがて、重々しい口調でつぶやいた。

 

「よかろう。力を貸してやるとしよう。だが、ひとつ条件がある」


「なんでしょう、どんなことでもします!」


「お前に、わしの "まことの弟子" になってもらうのだ。永遠に共にあることを、ここで誓ってくれ」


 その条件に、少年は即座に頷いた。こうして二人は、悪しき魔物への戦いに向かうのだった。


  *  *  *


 幾多の死闘を繰り広げ、遂に魔物を打ち倒した師弟。だが、最後の戦いで、少年は命を落としてしまう。

 少年の亡骸を抱きかかえながら、ゼラートは空を仰いだ。

 

「……我が弟子よ。お前との誓いは、ちゃんと守らせてもらうぞ」


 そう呟くと、ゼラートは呪文を唱え始めた。すると、少年の体が光に包まれ、ゆっくりと宙に浮かび上がる。

 光はやがて形を変え、ひとつの魂の姿となった。


「マール……。それがお前の新しい名だ。さあ、共に永遠を旅しようか」


 輝く魂は、するりとゼラートの腕の中に収まった。愛しい弟子を魂として傍らに置き、二人はゆるやかな時の流れの中へ溶けていった。

 魔法使いにとって、弟子との誓いはかけがえのない "絆" だったのだ。その絆ゆえに、二人の物語は尽きることなく続いていく──。


(了)

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