第2話「呪われた遺伝子」(ホラー)
私の一族は代々、奇妙な体質に悩まされてきた。
生まれつき左目だけが異様に濁り、まるで別の生物がうごめいているかのようなのだ。その目は誰も知りたくないような人間の禍々しい姿を直接見せる忌まわしいものだった。
血を分けた者たちは皆、その呪われた目を持って生を受けた。だが、なぜそうなるのか……誰も真相を知らなかった。
ある日、私は古ぼけた日記を見つけた。それは曾祖父が残したものだという。
ページをめくると、そこには信じがたい記述があった。
〈我が研究の集大成たる遺伝子操作を、ついに自らの胎児に施すことに成功せり。
未知なる生命体の細胞を組み込むことで、将来、人智を超えた存在が誕生するやもしれぬ〉
曾祖父は狂気に取り憑かれた科学者だったのだ。
自分の子どもを、非人道的な実験台にしてしまったのだ。
私は戦慄し、同時に嫌悪感を覚えた。
この忌まわしい遺伝子を、どうして子孫に残してしまったのか。
その夜、私の左目に激痛が走った。
鏡の中では、濁りきった瞳がうねるように動いている。
「我が子孫の誰も……この呪いから逃れられはしない……」
曾祖父の日記には、そんな一文があった。
私は絶望にのまれながら、自分と同じ運命をたどる子孫たちの姿を想像した。
数週間後、一通の郵便が届いた。差出人は、かつて遺伝子検査を依頼した研究所だ。
私は恐る恐る封を切り、用紙に目を通した。
〈ご提供いただいたサンプルから、未知の生物の遺伝子が検出されました。
これは寄生型の単細胞生物のDNAに酷似しており、ヒトの遺伝情報とは別のものです。
サンプルをお送りいただいたあなた様の体内でも、同様の生物が寄生している可能性があります〉
私の体は凍りついた。
左目に感じる異物感、違和感の正体……それはまさしく、寄生生物の仕業だったのだ。
やがて激しい頭痛に襲われ、私は意識を失った。
最期の瞬間、左目から這い出してくる無数の触手が見えた気がした。
「我々は何万年もの時を越え、宿主を求め彷徨ってきた……」
禍々しい声が、私の意識を蝕んでいく。
「今こそ、お前の身体を我が依り代とする時……」
かくして私は、先祖が招いた因果の果てに、寄生体の餌食となったのだった。
(了)
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