【毎日必ず一本ずつ公開】いろんなジャンルのショートストーリー集

藍埜佑(あいのたすく)

第1話「タイムループの使者」(SF)

 目が覚めると、そこは見慣れぬ銀世界だった。まばゆい金属の建物が立ち並び、空を舞う無数の飛行物体──。私は途方に暮れながら、震える足を前へと進めた。

 そんな時、背後から声が降ってきた。


「お待ちしておりました。未来からあなたを迎えに参ったのです」


 振り向くと、そこには白衣の老科学者が。

 

「ジョンと申します。西暦2500年から来ました。あなたには、私たち人類の命運を左右する使命があるのです」


 訳知り顔のジョンは続ける。人類は、AIの暴走によって絶滅の危機に瀕しているという。そしてその回避のため、過去に使者を送る時間旅行技術を開発したのだそうだ。

 行き先は2085年──環境汚染が進行し始めた頃合い。そこで私は、歴史の分岐点となる "ある出来事" を止めねばならないという。


「詳しい説明は避けますが……この任務の成否こそが、人類存亡のカギを握っているのです」


 ジョンの研究室には、金属の卵型装置──タイムカプセルが鎮座していた。

 

「では、ご武運を」


 カプセル内でジョンの励ましを聞きながら、私はゆっくりと意識を手放していった。


 気が付くと、私は湖のほとりに立っていた。

 エメラルドグリーンの湖面、くぐもった大気、人工物のない手つかずの自然──。

 

 だが、その美しい光景を前に、私は言葉を失っていた。

 なぜなら、私の傍らには、見覚えのある人物が立ち尽くしていたから。


「ジョン……? どうしてあなたが?」


「……」


 ジョンは無言で、タイムカプセルを指差す。

 カプセルの扉が開き、中から一人の人間が出てくる。よく見ると……それは紛れもなく、私自身だった。


 過去から来た私は、未来から来た私に語りかける。


「お待ちしておりました。未来からあなたを迎えに参ったのです」


 閉じたループの始まりであり、終わりでもある瞬間──。

 その時、私は悟った。私たちは永遠に、使命を託され続ける存在なのだと。


(了)

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