第11話 奈落 ゴ

 昔からオレは、親の『放任主義』の名のもとに、孤独だった。


 小学校のころは親の転勤で、一つの学校に長くいることは少なかった。中学になると、転勤は落ち着いたが、代わりに親は出張続きで全く家にいない。


 転校続きで、友達の作り方を知らないオレ―――いや、友達を作ってもすぐに別れると本能的に学習したオレは、友達を作ることも出来ず、『学校』という雑踏の中でただ一人だった。


 知らなかったんだ。他人と仲良くなる方法を。


 知らなかったんだ。仲の深め方を。


 知らなかったんだ。人と心を交わしあうことを。


 学校の奴らはオレに、何もしなかった。


 そりゃそうだ。みんな、自分のことで精いっぱい。『仲良くなろう』と気を遣ってくれる人間には、礼として自分も相手に気を遣う。そのうちに仲良くなっていく。


 しゃべりもしない、話しかけても来ない人間に構うヤツなんか居やしない。みんな、そんな余裕なんてない。


 気づけば、オレには、流行りの曲がゴチャゴチャ入ったウォークマンしか残っていなかった。


 つまらない人間。心底どうでもいい人間。流されていくだけの意味のない人間。


「なに聞いてるの?」


 彼女はそんなオレを知ろうとしてくれた。他人と仲良くなる方法を教えてくれた。


 仲の深め方を教えてくれた。


 なにより、心を交わしあう喜びを教えてくれた。


 オレにないものを彼女は全部くれた。だから―――



 ※ ※ ※



―――オレは、こんな所で…………………!


「死ねないッッッ!!!!」


 迫る針を、自爆覚悟の火球フレイムですべて焼き払う。


 そして、迫る槍と剣を再び爆炎で吹き飛ばす―――痛みは無視する。


 圧殺の鉄壁も爆発で無理やり軌道をずらす―――肌を焼かれても気にしない。


 爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破。


 すべての攻撃をすべて火球フレイムただ一つで防ぐ。


「あぁ、簡単なことだったな」


 シンプルな現状に、思わず口元をゆがめる。


「じゃあ、もっとシンプルに行こう」


 周囲が全く見えない砂塵の中。ヨミヤは己の命を奪う攻撃をすべて『爆裂の壁』で防ぎきる。そんな中、痛む足を無視して、少年は剣を前方にかざした。


 彼の能力ギフト、『領域』は使用した魔法の再現。その再現はあくまで『魔法の再現』であり、『魔法を撃った時』の再現ではない。


 そのため、魔力の込める量で、魔法の規模が変わってくる。


 ヒカリとの戦闘時、手の平に隠した火球フレイムを作ったように、込める量で様々な威力の魔法が作れる。


 その性質を利用して、彼が選んだ手段はただ一つ。


「耐えてみろよ」


 刹那、砂塵を打ち破って現れたのは、トカゲの大きさを遥かに超える


 そう、彼は賭けに出たのだ。


 残っている魔力すべてを込めた火球レーザーで目の前の『災害』を燃やし尽くすことを。


『!!??』


 『鉄踊り』はこの熱線を、鉄の壁を三枚展開することで防ごうと試みる。しかし、一枚目の壁は、接触時点で融解。地面すら溶かし始める熱線は、すぐに二枚目の壁を溶かしに入る。


「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 大熱線は、やがて二枚目を打ち破り―――――――そして、三枚目を瞬時に蒸発させ、『鉄踊り』を跡形もなく消し飛ばした。




「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………………ゥゥプ………!」


 浅い呼吸を繰り返してきたヨミヤは、不意にせり上げてきた吐き気に逆らうことが出来ず、吐瀉物をその場にぶちまける。


「魔力過大消費時の不快感………だったか………? どうでもいいか………………」


 全身を苛む激痛に、臓物の中を直接かき回されているような不快感。どちらにせよヨミヤは限界だった。


「………帰ろう」


 カシン………カシン………カシン………と、剣を杖に少年は歩を進める。


「はは………ちょうどいいや………」


 そんなヨミヤの前に、一本の木が生えていた。


 はたして、それは極限状態の彼の脳内が見せた幻覚か。しかし、今の彼にそれを判断する能力はなかった。


 少年は、真っ黒な木の下に落ちている果実を拾う。


「いただきます―――――――」


 真っ黒な果実に噛り付き―――――



 少年はそのまま意識を手放した。

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