第7話 それぞれの天職(3)


——この絶好球を打ち返さなきゃな。


「おや、そこにもう一人いましたか、あまりにも存在感が薄いので居られることに気が付きませんでしたよ」

「そうかもな、確かに俺はここに居並ぶ方々に比べれば、モブキャラだしな。だが、あんた、この中で俺が最初に目を覚ましていたのを見て、予想外だって驚いていたぜ、もう忘れたのか。」


半分は嘘だ。サーゲイルはフードをまぶかに被っていて表情までは分からなかった。


「お~、そうでした。思い出しました。あなたがいち早く覚醒したのでしたね。これはあなたの授かる天職に大いに期待したいものです」

「天職ねぇ・・・・。それにしても、みんな、召喚だ、邪神だって話によく平気で従ってるよな。おかしいって思わないのかよ。最初は、あんたとあんた、これを茶番だ犯罪だって騒いでたじゃねぇかよ」


惣治はアダムとファンを向きながら指摘する。するとアダムがムキになり


「黙れ、日本人!お前の目は節穴か。確かに俺も、最初は混乱してそう口にしたかもしれん。だがな、日本人。この建物の発する神聖さ、そして石板から発せられる光の持つ力、何より、俺はこの世界に来る瞬間の異常性を思い出したのだ。そのどれもが、これが現実だと俺に突きつける。お前は違うのか」

「そうよ、そのアダムって奴の言う通りよ。アタシも転移っていうの?その瞬間のことを良く思い出したのよ。それで納得することにしたの。屁理屈ばかりこねてないで、あなたも、現実に目を向けなさい。日本人」


ファンまで、アダムに加勢する。誰も惣治のフォロワーにはならない。金本に至っては、惣治に射るような視線を向けている。やはり、惣治の危惧した通りの展開になりつつあった。


「待って。わたしは、その神谷さんの疑問、同じように感じてました。たとえ皆さんの言うように、これが現実だとしても、わたしは邪神と戦えなんて言われて簡単に分かりましたなんて言えない。少なくとも、わたしは——」

「橘様、それまでにしましょう。橘様のご懸念は、このサーゲイル・ロードよく心に留めておきます。そこの青年も、え~神谷と言いましたか、神谷さんのお気持ちも分かりました。必ず、善処しようではありませんか。ですが、先ずはそのためにも、この判定の儀を行い、全員の天職を把握したいと思うのです」


そう言うと、サーゲイルは石板を乱暴に惣治に差し出した。


——大事な商売道具じゃないのかよ。


と内心毒づきながら惣治は、それを受け取った。今は、これ以上の追及は無駄だと感じたからだ。橘莉紗という美少女の応援を得たことでひとまず満足すべきだと鉾を収めることにした。そうして、惣治はやっと右手を石板に当てた。



暫く間があってから石板は柔らかな光で黄金色に輝きだした。


——びびった・・・・。俺だけ光らないのかと思った。


石板が光を発するのに間があったので、惣治は内心ヒヤッとしたが、努めて冷静さを装った。これで自分だけ無職だと告げられれば、立つ瀬がない。


「うん?なんですか、この聖者(セイント)とは・・・・。聖女(ラピュセル)なら分かりますが・・・・。知りませんね・・・・」

「そんなの聖女の男バージョンだろ、きっと」


惣治は不安そうにするサーゲイルに自分の世界の常識を述べる。


「黙っていなさい。神より、この時代の聖女のお立場を与えられし方は既に居られます。そもそも、聖者なる職は記録にありません。これは、よく調べねばなりませんね」

「・・・・俺のどこが聖者なのか知らんけど、その石板の故障じゃないなら、他に何か書いてあるだろ」

「黙っていろと言ったはずです!ん、・・・・。ともかく、先ずは調査せねば」


サーゲイルは、その後もブツブツ独り言を吐いていたが、兎も角、これで本当に『判定の儀』は終わった。

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