第6話 それぞれの天職(2)
「では、次は——」
「原野(はらの)碧(みどり)。わたしは原野碧です。」
「よろしい、原野さん。あなたは理解力のある方のようだ」
そう言ってサーゲイルは、金本の次に原野と名乗った少女に石板を渡す。原野は石板を受け取ると、深呼吸をしてから手を当てる。石板は今度は緑色に輝いた。
「おぉ、原野さん、あなたが与えられたのは白魔導士(ハイ・ヒーラー)です。これは、癒しの魔法や付与魔法を操る上級職です。きっとこれからの戦いでみなさんの力になることでしょう」
原野は、サーゲイルの話を聞いて心底ホッとしたようだった。それを見て橘が、「碧、どうしたの」と聞くと、
「わたし、間違ってここに連れてこられたと思ったの。だから、わたしには何の力も無くて、そしたら莉紗と離れ離れにされるかもって、そう思ったの」
「大丈夫よ、何があってもわたしは碧と一緒にいるから」
「では、橘さん、あなたの番ですよ」
二人のやり取りを遮るように、サーゲイルは橘をこちらへと手招きする。橘が近づくと、石板を左手で抱え、右手で橘の手を握ろうとする。橘は、すっと手を引っ込めて拒絶する。触ってくるのを予想していたかのようだ。
「自分でやります。サーゲイル・ロードさん」
「ゲイルとお呼び下さい。私は、あなたの味方ですよ、橘さん」
「・・・・。」
橘は、サーゲイルの言葉を無視して自分で石板に手を当てる。一瞬の間の後、石板は白く、これまでより一際強く輝いた。
「おぉ!!素晴らしい、なんと素晴らしい!女教皇(ハイプリエステス)が授けられるとは!神に仕える最高位の天職です」
サーゲイルはこれまでにない興奮を見せ、橘に対して跪こうとする。
「止めてください。・・・・それより、女教皇とはなんですか」
「女教皇は、我らが神のお力、すなわち最高位階の光魔法を操ることができるのです!これまで、この国で女教皇を神より授かったものはいません。数十年前、最後の女教皇が他国でお隠れになって以来、空位になっています。その存在もはや奇跡と言ってもよい」
「・・・・でも、わたし、そんな人じゃありませんから」
サーゲイルの勝手な盛り上がりに対して、橘は冷めた態度をとる。なおも大げさに褒め称えるサーゲイルを無視して、橘は原野の元へと戻ると、原野は「すごいね、莉紗はやっぱりすごい」とこちらもやや興奮気味に迎えた。
すげない態度を取られて一瞬ムッとした表情をしたサーゲイルを見て、惣治はニヤニヤしながら——すごいね、莉紗はやっぱりすごいと、心の中で原野をモノ真似をしながら、快哉を送った。
「では、これで全員ですね。これで判定の儀を終えます」
そんな惣治の姿を見咎め、サーゲイルは唐突に判定の終了を告げる。
「おい、俺がまだだ。あんた、分かってて言っただろ。あ~それから、俺の名前は神谷惣治と言います。遠い遠い日本という国から来ました。異世界の皆さん、どうぞよろしくお願いします」
惣治はサーゲイルや兵士たちを見ながら敢えて挑発的に言い返した。いい加減、どこかで文句を言ってやろうと思っていたところ、相手からボールを投げて来たのだ。
——この絶好球を打ち返さなきゃな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます