第5話 それぞれの天職(1)
隣の部屋は先程の神殿の大広間のような殺風景な造りから一変して、青色の複雑な文様の絨毯がひかれ、木製の重厚な家具が配置されていて、全体に豪華な印象を与える部屋だった。
「では、これより『判定の儀』を始めます。この
黒い石板を示しながら、サーゲイルは7人を順番に並べる。惣治は列の最後に立った。敢えて何も言わなかったのは、こうなったら、一端、この流れに付き合ってみようと思ったからだ。
今のところ、はっきりとした害意を連中からは感じない。しかも、最初に騒いだ男女も、この列の1・2番手に立っているように、その後は黙って連中に従っているように見える。
ここで、俺が騒ぎ立ててみてもフォロワーがすぐ前に並んでいる橘という美少女一人では心もとないと判断したからだ。
「では、あなたから。」
「俺は、アダム。アダム・バートランドだ。」
最初に石板に手を当てたのは、190センチぐらいある、最初に騒いでいた白人の男だ。黒の上下のコンプレッションウエアを押し上げる鍛え上げられた体から、圧倒的なパワーを感じる。
アダムが触れた石板が程なく赤く輝き始める。その光の荘厳な美しさを見て、列に並んだ皆から感嘆の声が上がる。
惣治も、流石に全てがインチキだ、茶番だとは言えないと感じていた。それほど、石板が放つ光は、見る人の心を揺さぶる美しさがあった。
光が収まると、石板に、赤く光る横文字のようなものが浮かび上がる。
「
「おぉっ」という歓声が兵士から上がる。どうやら
「
「俺はカレッジフットボールのレギュラー・ラインバッッカーだ。当然の結果だな」
アダムは、アメフトで鍛え上げた筋肉を見せつけるかのようなポーズをとる。意外と調子に乗りやすいタイプのようだ。
「では、次の方。え~、あなたは、」
「
ファンは、下から見上げるようにしてサーゲイルを挑発するような態度を取った。一方のサーゲイルはファンの挑発を無視して、石板を近づける。
フンッ、と鼻を鳴らしてファンは石板に手を乗せる。ほどなくして石板は黄色く輝く。
「
「何なの。アタシのその
ファンは、食い気味に自分の能力を聞いた。
「魔弓士は、敵を遠方から魔力弾で弓射し、前衛を援護します。近距離でも魔力弾を連射でき万能です。何よりその狙撃能力が抜群で、
「ふ~ん、そうなの。で、魔力弾ってことは、魔法が使えるのね」
「魔力弾は魔力弾ですよ。厳密にいえば魔法とは違いますが、ま、近いものと理解して頂いて構いません」
惣治には、ファンはこの状況にしっかり馴染んでいるように見えた。最初の騒ぎが嘘だったかのような二人の会話だ。
ファンに続いて、真崎が判定を受ける。今度は、石板は青く輝く。浮かび上がる文字を見て、サーゲイルの表情が興奮に染まる。
「おおっ、
「
真崎は、自分のジョブが大魔道だと分かり、大興奮だ。周囲の兵士も驚きを隠せないでいる。よほど強力な力を持っているのだろう。
サーゲイルが大魔道の能力について、高位階の黒魔法を操ることができると説明を続けたが、真崎は有頂天で、無双だ、ハーレムだと騒いで碌に聞いていないようだった。
真崎の興奮を他所に、判定は続く。次は金髪&大量ピアスの男だ。
「あなたは——」
サーゲイルが何か言う前に、金髪&ピアスの男は石板に手を押し当てた。すると石板は紫に輝きだす。
「ふむ、あなたは、
名乗っていないのに、名前を当てられ、金本はサーゲイルを睨む。
「言っていませんでしたが、この石板は、あなた方の天職だけではなく、名前や年齢など、魂の記憶のようなものを映し出しています。この文字は神代文字。いずれ、あなた方の中にも読める方が出てくるでしょうが、今は無理です。それから金本さん、あなたも、変に盾突くのはお止めなさい」
サーゲイルは嘲るように話すと、金本は「てめぇ!」と怒りを露わにする。しかし、直ぐに、兵士たちが槍を構えると、ちっ、と舌打ちをして金本は引き下がった。
「では、次は——」
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