第4話 テンプレ召喚に違和感


「え~と、これは、いわゆる勇者召喚というやつですか?」「それから、僕らはどんな力を与えられているんですか?」「絶対チート能力ですよね!あとそれから…」


幾つも質問をしようとする少年を白いローブの男が手で押さえるような仕草で制すと


「少年、あなたの名前は?」


と少年に名前を聞いた。


「すいません。僕、興奮してつい。僕は真崎、真崎(まさき)葵(あおい)と言います」


「分かりました。では、真崎君、あなたの質問に答えましょう。あなたが勇者かどうかは分りませんが、これは確かに異界からの召喚です。そして、あなた方がどんな力を授かったかは、これから判定によってそれぞれ知ることになるでしょう」

「やった、やったぞ!やっぱりそうなんだ。僕は異世界召喚されたんだ!チート無双だ!」


真崎葵と名乗った少年は、興奮して大声で何度も叫び、ガッツポーズをする。



「うるせーぞ、ガキ!おい、俺からも質問だ。」


白人の大男、日本人の少年の他に残ったもう一人の男が口を開く。金髪の長い髪をした目つきの鋭い男で、それなりにイケメンだ。ただ、目つきの悪さに加え、両耳に盛大に幾つも通したピアスと言葉遣いが、この男に邪悪な印象を与える。多分、このヤンキーもおそらく日本人だろう。惣治は、理由はないがそう確信していた。白いローブの男が、男の言葉に対してどうぞ、と頷く。


「世界を救えってよ、俺らをタダで働かせる気か、あぁ?見返りは?報酬に何をしてくれるんだ。」

「なるほど、それは言っていませんでしたね。あなた方が邪神と戦う準備は、私たちが責任をもって用意します。また、報酬は望むものは何なりと用意しましょう。あなた方が望むなら、邪神を打ち払ったあかつきには、国王陛下より爵位を賜り、この世界に領地を授かることもできると約束できます」


白いローブの男は、なんだそんなことですか、といった侮蔑的な態度で目つきの鋭い男に語った。



「あのっ、いいですか?」


これまで、息を潜めて成り行きを見ていた残り二人の女のうちの一人が、このやり取りに割り込んだ。


「質問ていうか、私たち二人を、直ぐに元の世界に帰してください!認めてもらえますか?」


この異常な状況に呑まれず、勇気をもって発言したのは艶やかな長い髪をポニーテールにした高校生らしき少女だった。170センチ近くある長身で、やはり学生服と思われる胸にエンブレムのついたチャコールのブレザーと赤いチェック柄のプリーツスカートという服装だ。スカートから延びる長く美しい足がスタイルの良さを際立たせていた。綺麗と可愛いが調和した美貌の持ち主で、ちょっとお目にかかれないレベルの美少女だ。


「ほう、あなた名前は何というのですか」


白いローブの男も、彼女の容姿に惹きつけられたようだった。


「私は、橘(たちばな)莉紗(りさ)です。人に名前を聞くのだったら、あなたも自己紹介くらいしたらどうですか」

「ハッハッハ。これは失敬しました。ようこそこの世界へ、橘さん。歓迎しますよ。私の名前はサーゲイル・ロード。この国の宮廷魔術師をしています。あなた方をお迎えする役目を国王陛下より賜り、ここに参った者です」


サーゲイル・ロードと名乗った白いローブの男は、笑顔で話を続けた。


「それから橘さん、残念ですが、あなたと隣の方も含め、ここにいる全員、元の世界へお帰しすることはできません。いや、正確には今は、です。最初に申し上げたように、あなた方は、邪神を打ち払うために、この世界に召喚されたのです。そして、その力は神の御業。我々ごときが行える術ではないのです。この地に召喚者が現れるのは、神のお告げによって我々も分かったにすぎません。ですから、邪神を打ち払い、この世界を救ったのち、元の世界へ帰ることが叶うと申し上げたのです。よろしいですか」


——なんだ、こいつ。確かにあの子は抜群にきれいだけど、さっきまでの尊大な態度から露骨に態度を変えやがって。


惣治は、サーゲイルの豹変ぶりに嫌悪感を抱いた。


「そんなっ・・・」


一方で、帰れないと知った橘莉紗は項垂れ、隣の少女と肩を抱き合って落胆している。彼女に抱き寄せられている少女は、震えながら「莉紗、どうしよう、どうしよう」と小声で不安を口にする。それを橘がなんとか励ましている。その様子で、二人が親密な関係だと分かる。制服姿ではないが、この少女も日本人だと惣治は理解した。アイボリーホワイトのブラウスに、薄緑色の長めのスカートを着た、150センチ半ばほどの背丈で、可愛い系の子だ。


——しかし、変だ。サーゲイルとかいうあの男は、妙なことを言っている。最初、あいつらが現れた時、俺を見て、あいつは、「すでに目覚めた者がいたか」と、少し驚いていた。予定外だったという感じだった。あいつらからしたら、俺たち全員が目覚めていない前提だったのではないか。


それから、俺たちのことを神に選ばれたと存在だとか持ち上げるようなことを言いながら、一方で後ろに兵士を配置して脅すような真似をして、全部がちぐはぐだ。全く信用できない。そして、何より最も奇妙なのは、召喚だの、邪神だのという荒唐無稽な話に、全員が疑問を口にしない点だ。何か理由があるのか?


そんな惣治の自問自答をよそに、サーゲイルは


「では、みんさん、こちらへついて来てください」


と全員を自分たちが入ってきた扉の奥へ移動させる。6人の男女は促されるまま、隣の部屋へと移動していた。またしても異議を差し挟むタイミングを失い、惣治もその列に続く。

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