第3話 テンプレ異世界召喚・・・なのか?


惣治は目を覚ました。


気が付けば、見慣れたいつもの天井・・・ではなく、石を積み上げて造りあげた広いホールのような場所だった。壁には松明がいくつも焚かれている。大きな神殿の大広間といった印象だ。


——どこだ、ここ・・・。


辺りを見渡すと、広間のような場所で、惣治の他に幾人かの男女が横たわっている。数えると、男が3人、女が3人、惣治を入れて計7人だ。どうやら、惣治が真っ先に目覚めたらしい。


正面に大きな扉が見える。


すると、扉がギギッと音をたてて開き、通路が奥から、白いローブをまとった人物が入ってくる。フードをまぶかに被り、顔が見えない。それに続き、10名ほどの背の高い屈強な体つきをした男たちが後に続く。


後ろに続く男たちは、皆、槍を持ち、鎧と思われる金属でできた胴を身にまとっている。兜は被っていないが、惣治はその装備から兵士だと思った。また、顔の作りから、兵士は全員日本人ではないと分かった。


——なんだ、こいつら!?


惣治は直ぐに最大限の警戒をして身構える。すると、白いローブの人物が一瞬首を傾げた。


「・・・・すでに、目覚めたものがいたか」


若々しい男の声だ。白いローブをまとった人物が若い男らしいと分かった。連中は見るからに怪しげな集団だが、惣治は意を決して声を掛けようとした。


「なぁ、あんたら——」

「さあ、全員起きよ!目覚めるのだ!」


惣治の声は、白いローブの男の良く通る大きな声で遮られた。


「うぅ・・・」「なに、ここどこ・・・?」


白いローブの男の声に反応し、6人の男女は徐々に覚醒する。すると、


「えっ!ちょっ、ちょっと、何なのよ!ここはどこなの!?」「おい!お前らはなんだ、俺たちはどうしてここにいる!」


惣治が口にしようとした疑問を、何人かの男女が代わりに言葉にする。

その疑問の声に答えることなく、白いローブの男が大きな声で話はじめる。


「喜びなさい。あなた達は選ばれたのです。力を与えられたのです。この世を救うため、神の御業をお借りして、ここに集ったのです」


こう言ってから、白いローブの男が惣治たち7名を見渡した。それから一呼吸おいて更に話を続けようとすると、


「おい、そんな茶番は止めろ!それより、俺たちをどうやってここに連れてきた、これは立派な誘拐だぞ!」


先ほど目覚めたうちの一人で、190センチぐらいある筋骨逞しい短髪の男がそう叫んだ。男はよく見れば彫の深い顔立ちの白人男性で、黒いピタッとしたスポーツウエアを上下とも着ている。たしか、あれはコンプレッションウエアとか言うんだったか。惣治はそれを思い出した。


「そうよ、何なのよあんた達、変なコスプレして。私はさっきまで、部屋で音楽を聴いていたはずなのに!変な光を浴びて、それで・・・。あんた達が何か変なことしたんでしょ!これは犯罪よ、犯罪!」


今度は、気の強そうな黒髪のアジア系の女が、自分の体をあちこち手で確かめながら喚く。

惣治も全く同感だが、それより、なぜ言葉が通じるのか。明らかに日本人ではないと分かる外見の両者が日本語で意思疎通している不自然さ、惣治はそこが気になった。


「黙れ、勝手に口を開くな!」


白いローブの男の後ろに控える、兵士と思われる集団の中で、最も煌びやかな黄金色の鎧を着た肌の黒い壮年の男が、有無を言わさぬ威厳をもった声で叫ぶ。


「次に喚いたら、容赦せんぞ!」


黒い肌の男は、短く刈り揃えた髭が印象的な口から、さらに怒声を発する。声に続いて周囲の銀色の鎧を着た兵士たちが一斉に槍を構える。


——そんな脅しで黙るものかよ。


惣治はそう思ったが、不思議とあっさり、先ほど騒いだ男女は静かになった。


「隊長、それまで。私の話が唐突すぎたのでしょう。この者たちに、もう少し分かるように説明してあげよう」

「はっ」


そういうと、隊長と呼ばれた黄金色の鎧を着た男とは引き下がった。


白いローブの男が一歩前に進み、まぶかく被ったローブのフードを脱ぐ。そこに表れたのは、ダークブラウンの髪を短く切りそろえた若い男の顔だった。容貌から几帳面さが強く感じられ、スキのなさや狡猾さを思わせる。


「あなた方は、この世界ではない、遥かな異界から招かれたのです。この世界には今、危機が訪れています。突如として邪神が表れ、世界を飲み込もうとしているのです。あなた方は、力を与えられる才能を持った者としてこの世界に選ばれました。選ばれし者として、邪神を打ち払い、この世界を救うという崇高なる使命を負ったのです。そして、使命を果たしたのち、あなた方は元の世界へ戻ることができるでしょう。どうです、分かりましたか?」


白いローブの男が諭すように話す。


——そんなテンプレのラノベみたいな話、誰がまともに信じるかよ。さあ、さっきのお二人さん、思いっきり噛みついてやれ!


惣治は話の内容に呆れたが、惣治がツッコミ役を期待した先ほど大声で騒いだ男女は黙ったままだ。それどころか、不思議と誰もがこの荒唐無稽な話を黙って聞いてる。

それなら俺がハッキリ言ってやる。


と惣治が決意した時、白いローブの男がまた話し始めた。


「そうですね。このまま一方的に話しても理解が深まらないでしょう。質問があれば受けようではありませんか。ただし、一人づつ落ち着いて話してください」


この言葉に対して、今まで発言が無かった別の男が「はいっ」といって質問を始める。170センチくらいの背丈の黒髪の少年で、胸にエンブレムの刺繍がついた濃紺色のブレザータイプの学生服らしいのを着ている。惣治は気勢を削がれてしまい、しばらく様子を見ることにした。少年は多分日本人だ。惣治は、見た目からそう予想した。


「え~と、これは、いわゆる勇者召喚というやつですか?」「それから、僕らはどんな力を与えられているんですか?」「絶対チート能力ですよね!あとそれから…」


幾つも質問をしようとする少年を白いローブの男が手で押さえるような仕草で制すと


「少年、あなたの名前は?」


と少年に名前を聞いた。

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