第16話
私たちが近づいてもその大きな犬は目を覚ます気配がなかった。
「この子死んじゃってるの?」
こんなに近づいているのに、生きているにしてはあまりにも反応がなかった。
しかし、死んでいるのだとしてもおかしな点が残る。
動物の死体がこんなに綺麗な状態で残っているものだろうか?
私たちが来る少し前に死んでしまったのだとしたらそれもあり得るかもしれない
死んだように動かない犬の首元を見る。
そこには人に飼われていたことを示す首輪がはまっていた。
人類が滅んでから数十年。
そんなに長いことこと犬が生きていられるものだろうか?
少なくとも私が勉強した犬の寿命は十年やそこらだったはずだ。
『これはただの犬じゃなさそうだ』
ヘルメスの指さす犬の足先をよく見ると、金属のような鈍い光沢が見えた。
「この子もロボットなの?」
『医療現場でよく導入されていた動物型ロボット《アニマロイド》の一種だろうね。アニマルセラピーを利用したメンタルケアに加えて、警備員としての役割も果たすことを期待されて研究されていたロボットだよ』
確かに理にかなっているのかもしれない。
実際の動物ではどんな行動をするかわからない点やコスト面でも導入はしにくいだろう。
その点機械であるならば、制御可能なうえに世話をする必要もないのだから。
しかし、そんなロボットがどうしてこんなに血で汚れた状態になったのだろうか。
「この子は壊れてるの?」
『大分無理をしていたようだね。どの部位もかなり損傷してる。そもそもアニマロイドは人間と接することが多い関係上、一定以上の力が出ないようになっているはずなんだけど、それを超えて無理を続けていたみたいだ』
ヘルメスがロボットの全身に手をかざしながらそういった。
そうか、この子はもう壊れてしまっているのか。
地面に眠るロボットに視線を向ける。
血に染まったいるせいで最初はわからなかったが、よく見ると白かったであろう毛はところどころがはげ、下からは金属の体が顔を出していた。
そんな様子が、この子が望んだ結末ではなかっただろうことを想起させた。
『彼には少し悪いけれど、ここで何があったのかを見せてもらおう』
ヘルメスが自身の手から何かのケーブルを伸ばす。
「何をするの?」
『記録媒体にアクセスして彼の記憶を見せてもらう』
「そんなことできるの!?」
私は驚いて目を見開いた。
そんな私をよそにヘルメスは手から伸びたケーブルをアニマロイドの首元へと差し込んだ。
『イヴ、少し驚くと思うけどこれから起こることはあくまで映像だから安心してほしい。』
ヘルメスがそういうと体が光り始めた。
驚くとはどういうことだろうか?
私がヘルメスに何が起こるのか尋ねようとした次の瞬間ヘルメスを中心にして周りの風景が姿を変える。
それはまるで病院の一室のような場所だった。
周りには白衣を着た医者のような人が数人立っている。
あれ、さっきまで外にいなかったっけ?
というかこの人たちは!?
あまりに唐突に変化した状況に私が目を白黒させていると、突然現れた医者のような風貌人々のうちの一人がこちらに話しかけてきた。
『今日からここが君の職場だ、よろしく頼むよ』
そういってきた男性に続いて周りの人々も口々によろしくと声をかけてくる。
これはどういう状況なのだろうか?
困惑していると今度は自分のおなかのあたりから声が聞こえた。
『こちらこそよろしく頼む。アニマロイド、タイプ1だ。』
声のほうを見ると先ほどまで地面に横たわっていたロボットが立っていた。
毛並みは先ほどまでとは違いきれいな真っ白で、金属なんかも見えていない。
「ヘルメスこれって…」
『これは過去に実際に彼が体験したことの記録を再生しているんだ。あくまで再生に過ぎないから触れたりすることはできないけれどね』
ヘルメスが近くにいた医者のうちの一人の手に触れようとする。
しかし、実際には触れられずその手を通り抜けるようにヘルメスの手は空を切った。
「じゃあ、このまま見ていればここで何があったのかがわかるってこと?」
『そういうことだね、少し長くなるかもしれないけれど実際に何があったのか彼の記憶をたどって確認してみよう』
そうして私たちはこの町で見つけたあるアニマロイドの記憶を追体験することになった。
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