第15話

病院を目指し始めて数分。


特に変わったところのない街並みを眺めながら歩いていた私たちの目の前に、今までとは明らかに変わった異様な景色が飛び込んできた。


「ねえ、ヘルメス…、これって…」


私は目に入ったそれを指さしながら隣にいるヘルメスに尋ねる。


心なしかその声は震えていた。


『ああ、見ての通りだろうね。人骨だ…でもなんでこんなに…、それにこれは…』


ヘルメスも思わず言葉に詰まる。


しかし、それも仕方のないことだろう。


私たちの目の前に広がっていたのは、数えられないほどの人骨が杭のようにとがった木に突き刺さった光景だったのだから。


「これって、みんなこの木に刺さって死んだってこと…?」


もし本当にそんなことが起こっていたのなら、一体数十年前にこの町で何が起こったのだろうか。


目の前に広がるあまりにも異様な光景に足が震える。


『いや、そうではないみたいだよ。こっちの骨なんかはかなり刺さりが甘い。でも木自体に暴れたような傷がついていないから、この木は死んだ後に刺されたんじゃないかな』


私が動揺している間にも、いち早くヘルメスが状況の把握を始める。


とりあえず私が初めに考えたような凄惨なことが起こっていたわけではないようだ。


少し安心する。


しかし、それが分かってもこの異様な光景が変わるわけではない。


一体誰が何のためにこんなことをしたのだろうか。


「ねえ、ヘルメス。これをした人は何でこんなことをしたのかな?」


『理由は僕にもわからないが穏やかな理由ではなさそうなのは確かだね』


「そうだよね…」


せっかくニコとの出会いで楽しい旅になっていたのになあ。


私は首から下げたカメラに触れながらそんなことを考える。


外の世界はいいことばかりではないとヘルメスは言っていたし、私もその覚悟を決めたはずだった。


でも、始まって早々にこんな重そうなのはやめてほしかったなあと思わずため息を吐いてしまった。


『ともかく、この人骨の続く方へ行ってみようか。目的の病院もちょうどそっちの方角だしね、何かわかるかもしれない。』


「うぅ、気が乗らないぃ」


しかし、いつまでもここにとどまるわけにもいかない。


目的の病院もそっちの方にあるというのなら行くしかないのだろう。


私はしぶしぶヘルメスの後に続く。





ヘルメスの後に続き病院に向かう間も、杭に刺さった人骨が道に並んでいる。


時折見える人骨に絡まった元は服だったであろう布の切れ端が、これは作り物などではないのだということを伝えている。


病院に近づくにつれ目に映る人骨の量は増えていく。


それは暗にこの人骨の原因が病院にいることを示しているようだった。


そんな人骨の道を進んでいると道の先に大きな建物が現れる。


これが病院だろうか。


私達は開きっぱなしになっている門をくぐり、敷地の中へと入る。


「ねぇ、ヘルメス。あそこに誰かいる」


門をくぐり病院の入口へと目を向けると何者かの影が見えた。


『どうやら無関係ではなさそうだね』


ヘルメスとともに入り口に近づくとその影がはっきりと言えてくる。


それはもともとは白かったであろう毛をまだら模様に赤黒く染めた、一匹の巨大な犬だった。







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