第11話

歴史館を出発して三日後の早朝。


まだ太陽が昇る前の薄暗い空のもと、私たちの目の前には波の音だけが聞こえる静かな砂浜が広がっていた。


私は生まれて初めて見る広大な海に目を奪われる。


世界にはこんな光景が本当に広がっていたんだ。


海面にはまだうっすらと残った星空が反射し、何とも言えない幻想的な風景が広がっていた。


『目的の海岸はここのはずだが…ニコの行きたかったところはどっちだい?』


『向こうの岩場のほうですね』


ニコが指さす方を見るとそちらには砂浜ではなく、大きな岩場が広がっていた。


「えっ?こっちのきれいな砂浜じゃなくて、あっちの何もない岩場なの?」


『ええ、なんでもあの岩場の中に外からじゃわからないすごくきれいな景色があるそうですよ』


こんなに綺麗な風景が目の前に広がっているのに目的はあの何もない岩場のほうならしい。


私はこれ以上の景色とはどんなものなのだろうと首をかしげながら二人の後についていった。



◇◇◇



『60年前と変わっていなければ確かこの辺りにあるはずなのですが…』


ニコの案内に続いて岩場の中をしばらく歩いていると目の前に大きな亀裂の入った岩が見えてきた。


『ああ、これですね館長の言っていた特徴と一致します』


「この大きな岩が目的地なの?」


こんな大きな裂け目があること以外に、特にこれといった特徴のない岩が目的地なのだろうか?


こんな岩より、さっきの砂浜のほうがよっぽどきれいだと思うのだけれど。


『はい、この岩が目的地です。まあ正確にはこの岩の中が、ですが』


「この岩、中に入れるの?」


確かに岩の裂け目はかなり大きく、巨体であるヘルメスでもぎりぎり通れそうなほどである。


『館長の話では中に大きな空間があるそうです。ただ、60年以上前のことなので中に入っても大丈夫なほど強度があるかどうか』


確かに最後にはいったのが60年以上も前となると安全性には疑問が残る。


館長がこの場所に最後に訪れたのは戦争が始まる前だろうし、その後戦争や時間の経過の影響などで強度は確実に落ちているだろう。


『なるほど、そういうことなら二人とも少しだけ時間をもらってもいいかな?中の強度や構造を調べてみるよ』


「そんなことまでできるの?」


『まあ、僕は人を守るためにいろんなことを想定して作られたアンドロイドだからね。こういうものの強度や構造を調べる機能も備わっているんだ』


本当にヘルメスを作った博士はどんな人だったんだろうか。


私は博士の生体情報から生まれたらしいから見た目は似ているのだろうけど、全く想像ができない。


部屋でいくつかのアンドロイドの勉強はしたが、ヘルメスほど多芸なアンドロイドは見たことがない。


ますます謎が深まるばかりである。


そんな私の驚きをよそに、ヘルメスは目の前の岩に両腕を当て早速調査を始めた。


私には岩に両腕を当てているだけにしか見えないが、あれで調査を行っているらしい。


五分ほどたっただろうか。


ヘルメスは調査が終わったのか岩から両腕を離してこちらへと振り向いた。


『強度的には入っても問題なさそうだね、中の空間もしっかり確認できた、特に崩れているところとかもなさそうだよ』


『それはよかった。大分時間が経っていますのでそこが不安でしたから。それでは早速中に入ってみましょうか。』


「れっつごー」


先頭に立って中に入っていくニコに続き、私たちも岩の裂け目へと入っていった。

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