第10話
歴史館を尋ねた次の日、私たちはニコの目的地を目指して相変わらずの雪の中を進んでいた。
外の世界に出てから、天気は雪ばかりで歩くのには慣れてきたものの、朝の寒さにはまだ慣れない。
こういうところでは、前を歩いて風よけになっているヘルメスの機械の体がうらやましくなってくる。
『気がまぎれるように何かお話でもしましょうか』
朝の凍えるような寒さに顔をしかめて歩いていると、私の様子に気を使ったのかニコが声をかけてくれた。
「うん、お願い」
『わかりました、それではそうですね…きれいな羽をもつ鳥を撮影しに、山奥に向かった時の話から…』
そういってニコは自分がかつて経験した様々なことを話してくれた。
ニコの話してくれるお話はどれもとても面白くて、そしてどの話にも決まって館長さんが出てきた。
館長さんの話をするときのニコはとても楽しそうで、館長さんと本当に仲が良かったことがうかがえた。
「ニコは本当に館長さんのことが好きだったんだね」
『はい、館長はとても面白い方で私にとってはかけがえのない友人でした。そして何より機械である私に、カメラという趣味を教えてくれた人ですから』
ニコの言葉に私は首をかしげる
私はニコの見た目から、ニコは写真を撮るために作られたアンドロイドだと思っていた。
しかし、ニコの言うようにカメラを教えてもらったのであれば、ニコは別の用途で作られたアンドロイドなのだろうか。
「ニコは写真を撮るために作られたアンドロイドじゃないの?」
『ええ、そうですよ』
「じゃあ、カメラを教えてもらったっておかしくない?最初から知ってたはずでしょ?」
私がそういうと、ニコは納得したという様子でうなずいた
『ああ、なるほどそういうことですか。そうですね確かに仕事としての撮影は初めから私の中にプログラムされていましたよ』
「じゃあ…」
『でもそれはあくまで記録として写真に残すための撮影です。私が館長から教えてもらったのは、記録を残さないといけないから撮る、のではなく自分が撮りたいから撮るといった撮影です。』
「それって違うものなの?」
『そうですね、撮るという行為は同じでもその被写体に込められた思いは全くの別のものになります。記録としての撮影はとるものの価値によってその写真の価値が決まります。そして見る人によっての価値の変動はあまりありません。それに対して趣味としての撮影は、撮るものに価値があるかないかは関係なしに、私がその時に撮りたいと思ったもの撮影します。それは他人とっては全く価値のないものであることが多いですが、私にとってはとても価値のあるものになります。同じ一枚の写真なのに、見る人によってさまざまな価値に代わる、そんなところがとても面白いと思うんですよ。』
「それが今はニコが写真を撮る理由になったの?」
『それも大きいですが、一番の理由は何気ない日常だった特別な瞬間を形に残せるからですね』
「何気ない日常なのに特別な瞬間…?」
『私たちが過ごしている今という時間は、今の私たちにとってはなんでもない日常で、特別写真に記録しておこうと思うようなものではありません。しかし、いずれ時間が経ったときにこのなんでもない日常だった今という時間は、特別だった過去になってしまいます。そうなったときに、その特別になった過去を形として残し続けることができる。それが私が写真を撮り続けてる一番の理由です。』
「…私にはちょっと難しいかな」
『あはは、いずれわかる時が来ますよ。』
ニコの言葉に私はそういうものなのかなぁと考えながら歩き続けるのだった。
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