第9話

「ヘルメス、生体情報って?」


『あー、そういえば説明してなかったね。生体情報っていうのは、人間を作るときに必要になる元となる人間のデータが詰まった媒体のことだよ。例えば、これが私を作った博士の生体情報だね、まあ君が生まれるときに使ってしまったから中身はからだけど。』


ヘルメスから片手に収まるくらいの直方体の物体を手渡される。


その直方体はガラスのように透き通った物体だった。


これ何でできてるんだろう?


『生体情報でしたら、一人分だけですが持っています。お譲りするのもかまいません。ですがお譲りする前に一つだけ、私の頼みを聞いていただけませんか?』


「たのみ?」


『はい、私と一緒に行ってほしいところがあるんです。』


私たちと一緒に行きたいところ?


『ああ、なるほど。そういうことか。』


ヘルメスは一人訳知りのように話している。


いや、一人で勝手に納得せずに話してほしんだけど。


『あー、説明するとね、僕たちのような自律思考型のヒューマノイドには暴走等を防ぐために、所有者登録をしている人間の同行がない限り決まった範囲内でしか行動ができないように制限されているんだ。』


「つまり、範囲の外に行きたいところがあるから一緒に行ってほしいってこと?でも、所有者登録してる人じゃないといけないんだよね?」


私はニコへと尋ねる。


今までの話からしてニコの所有者はこの歴史館の館長だったのではないだろうか。


その館長がすでに亡くなっている場合所有者登録とやらはどうなるのだろう?


『はい、その通りです。ですが、私の前所有者である館長はすでに亡くなられているため、現在私の所有者は存在しません。ですので、一時的にあなたを所有者として登録することで条件を満たすことは可能です』


『なるほど、そういうことなら僕は構わないよ。イヴはどうだい?』


「うん、私も問題ない。でも、ニコはどこに行きたいの?」


私はそのことが気になっていた。


もう人類が滅んで50年以上が経ち、地形や街並みも大きく変化してしまった。


そんな世界で何十年もこの建物の管理だけをして過ごしていた彼は、何のためにどこへ行きたいと願っているのだろう。


『館長が生前よく話してくださった、思い出の海岸へ行きたいんです。』


『思い出の海岸?』


『はい、館長がいつも綺麗だったとおっしゃっていて見てみたいんです、それに館長との約束もありますので…』


「約束って…?」


何十年もたった今でも、果たしたい約束とはどんなものなのだろう。


『とりあえず、その詳しい場所を教えてもらってもいいかな』


私が約束の内容を聞く前に、ヘルメスの言葉が遮る。


そのままヘルメスとニコはどうやってその場所に行くかの相談を始めてしまい、結局約束の内容を聞くことはできなかった。




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