第8話
『お待たせしました』
ニコがいくつかの荷物を持ってもどってきた。
どうやらあれらがニコが見せたかったものらしい。
「それがカメラ?」
私はニコの持ってきた箱のうち、一つを指さして尋ねる。
『はい、詳しくない方にあまり多くのカメラを紹介しても難しいと思いましたので。とりあえず、代表的なものをいくつかお持ちしました。』
どうやらこのカメラ頭のロボットは初心者に対する対応もできるらしい。
ヘルメス然り、ヒューマノイドというものはみなこうなのだろうか?
ヘルメスから前に聞いた話では、ヒューマノイドは人間の生活をサポートするために作られたそうだが、人間のいなくなった世界でも彼らは人間のために働いているのだとニコの対応から感じられた。
そんな私の思考がニコに伝わることはなく、ニコのそれぞれのカメラについて説明をしてくれる。
ニコの説明は丁寧で、それぞれのカメラの特徴を初心者にもわかるようにかみ砕いて説明してくれた。
詳しすぎたり細かい説明などはなく、こちらが分かりにくそうだと思ったら言い方を変えたりなど話の節々から彼の気遣いがうかがえた。
だからこそ私は疑問に思う。
彼のこのカメラに対する説明や、人に対する接し方も人間をサポートするために作られたもので、彼は人類が滅んだ後もそれを続けてきたのだろう。
誰も訪ねてこなくなったこの建物で、何十年も人間から決められた仕事をし続けて。
人類のいなくなった世界で彼らは何を考えて生きてきたのだろう。
ニコのカメラに関する話は面白かった。
データサーバーにアクセスできないということは、この話はマニュアルではなくニコが自分で考えて話してくれたのだろう。
だからこそ、私は彼の現状に対する思いが気になった。
ニコのカメラに関する説明が終わり、話題は次のものへと移る。
『こちらが先ほど説明したカメラで撮影した写真を現像したものになります。』
そういってニコが開いた箱の中にはたくさんの写真が入っていた。
『館長は世界中の写真を撮ることが趣味でして、昔は館長といろいろなところに行ったものです。例えば、こちらは寒冷地に行ったときに撮影したオーロラですね。この時はこの地域で雪が降ることはなくて、初めて見た雪に館長がはしゃいでいたのを覚えています。』
写真を見せながらニコは懐かしそうに当時の様子を語る。
その様子はまるで好きなものについて語る子供の様だった。
「きれいな写真…、これオーロラっていうの?」
『はい、一部地域でしか見られない現象なんですよ。それにいろいろと条件がそろわないと現れなくて…、当時写真を撮るのに随分と苦労しました。』
オーロラの写真は素人目にもとてもよく取れていて、写真へのこだわりを感じさせられた。
『ほかにもですね、こちらの世界で一番大きな滝を撮った写真や、最も美しい夜景といわれていた町などいろんな写真がありますよ。』
ニコは本当に嬉しそうに次々に写真を手渡してくる。
その写真一つ一つに説明を加えながら、渡してくるのでその写真を撮った時の風景が容易に想像できた。
ニコのそんな話を聞きながら、写真一つ一つを見ていく。
中には何の変哲もない日常の風景や、どこにでもありそうなものが写っている写真もあったが、どの写真も写真を撮った人の楽しそうな雰囲気が伝わってくるような、そんな写真ばかりだった。
写真を見て、私は思う。
この中でどれだけの景色が今も残っているのだろうかと。
写真の中に映る景色はどれもとてもきれいで、実際に私の目で見てみたいと思うものばかりだ。
しかし、少なくとも人工的な景色はすでに失われているだろう。
環境に関しても残っていないものがほとんどなのではないだろうか。
現にニコはこの辺りは数十年前には雪が降っていなかったと言っていた。
外の世界に出てまだ数日だが、この数日だけでも雪が降っていない日のほうが珍しいくらいだった。
この写真を見せてくれたニコには感謝しよう、これはニコがいなかったら私には見ることのできなかった景色だ。
「ありがとうニコ、初めて見る景色ばかりですごく楽しかった」
『いえいえ、私が自慢したかったものですから。楽しんでもらえたようで何よりです。』
写真を見終え私が感謝を述べると、ニコは照れたようにイヤイヤと手を振る。
『いや、本当に助かったよ。研究所には博士の興味がなかったせいで、その手の写真はあまり保管していなかったからね。どこかで見せてあげたいと思っていたんだ。』
『お役に立てたのならよかったです』
『イヴのためにここまでしてももらって申し訳ないのでけれど、もう一つだけ頼みたいことがあるのだけれど、いいだろうか?』
『はぁ…私にできることなら?』
ヘルメスの言葉にニコが首をかしげる。
『もし君が誰かしらの生体情報を持っているなら譲ってほしい』
ヘルメスから飛び出してきた言葉は私も聞いたことのない言葉だった。
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