第5話

 ヘルメスからの衝撃的な話の連続で、少し疲れた私は人類の存続云々はとりあえずおいておくことにした。


 今すぐに考えても答えが出るようなものでもないし、ヘルメスからも旅をしていく中でゆっくり考えていけばいいと言われたからだ。


 というか10歳の子供に考えさせるには内容が重すぎじゃないだろうか


 いくら覚悟していたとはいえ人類の存亡とかまではさすがに予想していなかった。


 憂鬱な気分で空を仰ぐ


 仰ぎ見た空はどんよりと重い雲が広がっており、しんしんと雪が降り続けている。


 ああ、こんな話を聞いていなければ初めて見る雪も楽しめただろうにと思わずため息を吐きたくなる。


 だめだ、気分を切り替えないとと自分に言い聞かせ、歩きながらあたりをきょろきょろと見渡す。

 せっかく念願の外に出たのだ、陰鬱な気持ちで過ごすより楽しまなければ損である。


そうやってあたりを見渡していると、がれきの中の一つの看板らしきものが目に留まった。


「はん…ばー…がー…?」


何の名前だろうか


「ヘルメス、はんばーがー?って何?」


私は目に留まった看板を指さしながらヘルメスに尋ねる


『ハンバーガーは食べ物の名前だね』


「はんばーがーは食べ物なの?おいしい?」


『人間の間では人気の食べ物だったね』


「プリンより?」


『どうかな…どちらも人気だったし、どちらが上かとかは比べられないぐらいだったと思うよ』


どうやらはんばーがーとやらはプリンと張り合えるぐらいおいしいらしい


「私も食べてみたい」


『ははは、言うと思ったよ。五分ほど待ってもらえるかな、すぐに用意するよ』


「作れるの?」


『大丈夫だよ、材料となる食材カートリッジはまだまだあるし、食事の製造は僕に内蔵された機能の一つだからね』


無理だろうと思って言ってみたのだが食事の用意までできるとは、なんとも便利なロボットである


ヘルメスに言われてから待つこと五分


ヘルメスの胸部が開き、中から一つの包みが現れた


「そこそんな風になってたんだ」


『まだまだ見せていない機能が多いからね、僕は巨体な分できることが多いんだ。さあ温かいうちにどうぞ』


ヘルメスから包が手渡される


包を開けるとあたりには嗅いだこともないようなどこか食欲を誘う独特なにおいが広がった。


包の中からは肉やキャベツを挟んだパンが現れる


これがはんばーがー…


なんと食欲が誘われるにおいだろうか


『そのままかぶりついて食べるといいよ、こぼさないようにね』


ヘルメスの言うとおりにパンへとかぶりつく


…っ、おいしいっ


あまりのおいしさに一心不乱にかぶりついているとハンバーガーはすぐにすべて私にの胃の中へと消えてしまった


『どうやら気に入ってもらえたようだね』


「確かにおいしかった。でも、どうしてもっと早くこんなものがあるって教えてくれなかったの?いつも似たような味気のないごはんだったし」


『おいしいものは食べさせてはあげたかったんだけど、先に外の環境に耐えられる体を作る必要があったからね、あの食事が一番効率が良かったんだよ』


「ん、そう言われると仕方がない。でも、少しはおいしいものを出してくれてもよかったと思う」


『そうすると普段の味気のない食事がつらく感じるでしょ。まあ、これからはおいしい食事が食べられるから期待してくれていいよ』


「プリンもつく?」


『ああ、プリンもつけるとも、一日一個だけどね』


なんということだろう、あの味気ない食事ではなくおいしい食事が毎日食べられるうえ、プリンまでついてくるらしい。


今日初めての前向きな話を聞き、これからの旅が少し楽しみになった。


『少しは心が晴れたかな』


「うん、まあ人類がどうとかは今気にしてもどうしようもないから。目先のおいしいものをとりあえずは楽しみにする」


『切り替えが早いところは、君のいいところだね。それじゃあ、そろそろ出発しようか。』


「うん」


そうして私たちは、雪の積もるがれきの中を再び歩き始めた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

3日ごと 00:00 予定は変更される可能性があります

終わりの世界の歩き方 如月 梓 @Azusa00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画