第3話

「なに…これ…」


目の前に広がるがれきの山を見ながら呆然とつぶやく。


なんだこれは。


私が部屋の中で勉強してきたものとは違う。


何かの間違いであってほしいと必死にあたりを見渡してみる。


そうして見渡したことで気づいてしまった。


がれきの中にある多くのものに。


この場所がかつてたくさんの人でにぎわっていたのだということを証明してしまうようなそれらは、どうしようもなく私の希望を打ち砕いていく。


「ヘルメス…、ここが特別なだけだよね…」


私はすがるように声を絞り出す。


こんなのは何かの間違いだと言ってほしい。


ここが特別なのだと答えてほしい。


他の場所には部屋の中で学んだように大勢の人が暮らしているのだと。


しかし、ヘルメスからは私の望んだ言葉は返ってこなかった。


『イヴ、残念だけれどここが特別なわけではないよ。今は世界中ほとんどのところがここら一帯のようにがれきの山だ』


「…っ、そんな、じゃあほかの人たちはどこにいるの。外の世界にはいっぱい人がいるんでしょ。私勉強したもん。2050年には世界の総人口は200億人もいたんでしょ。こんながれきの山ばっかりでどうやって生きているの」


自分でもバカなことを言っていると思う。


そんなことを言っている時点で答えなんて出ているのに。


でも、認めたくないのだ。


『イヴ…、賢い君ならもう気づいてしまっているはず…と、まだ十歳の君にいうのはさすがに酷かな。でもねこれから旅をするうえで君には知っておいてもらわなければならないんだもっと世界のことを、だからね、いいかいイヴ…』


「よくないっやめて」


思わずヘルメスの言葉をさえぎる。


やめて、言わないでほしいと。


この先に続くヘルメスの言葉がなんとなくわかってしまったから。


しかし無情にもヘルメスの言葉は続く。


私の予想以上の内容を含んで。


『この世界の人間は60年前に絶滅している。だから君はこの地球最後の人間だ。』


「…は?」


は?は?は?


まってほしい、まってほしい。


人間は50年前に絶滅した?


私が地球最後の人間?


私の脳がヘルメスの言葉を理解することを拒んでいる。


確かに私は世界中がこんながれきの山ばかりなのであれば、人間の数は極端に少なくなっているだろうとは思った。


そもそも、あんな部屋に十年も私一人だけだったのだから、外の世界では何かしら問題が発生しているのだろうとも予想していた。


しかし、現実はどうだ


人間が絶滅した?つまり世界中どこを探しても人間なんて私以外に存在しない?


あまりのショックに膝から力が抜けその場に座り込んでしまう。


そんな私にヘルメスは続ける。


『この現状を見て、旅に出るのは嫌になったかい?もし、そうならこのまま部屋に戻ってもいい。さっきも言ったけれどこの先にもつらいことはきっと多くある。それでも旅に出るかい?』


もう一度あの部屋に戻れば、これ以上つらい現実を知ることはないのだろう。


しかし、今までのように外へのあこがれを想像して過ごすことはもうできない。


現実がつらいものだと知ってしまったから。


それならば。


「…っ、大丈夫だよヘルメス。どうせあの部屋に戻ってももう憧れに浸ることはできないんだ。なら、せめて私は今の世界を見てみたい。自分の想像とは違ったものだったとしても、自分の目で確認したい。」


そういって私は立ち上がる。


別にショックが抜けたわけじゃない。


今だって人間が私一人という現実は受け入れがたいし、正直立ち止まってしまった方がいいのではないかという思いもある。


それでも、世界を見てみたいという思いもまた自分の中では消えていないのだ。


たとえそれが自分の想像していたようなものではなくなってしまっているのだとしても、せめて自身の目でそれを確認したいのだ。


『…君は強いね。わかった、それじゃあこのまま旅に出よう。ただしその前に一つ話しておきたいことがあるんだ』


「はなし?」


『君が生まれた理由とこの旅の目的について、少しだけ長くなるかもしれないけれど、大事なことだから聞いてほしい』


そういってヘルメスは私と一緒に歩き始めた。





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