第3章:「フィボナッチが紡ぐ真実」

 翌日、ミチは早朝から目覚めていた。昨夜の決意が、彼女の心を躍らせる。朝食の支度を済ませると、ミチは田中先生に電話をかけた。


「もしもし、田中先生。昨日はありがとうございました」


「久我さん、おはようございます。昨日のお話、じっくり考えてみました。是非一緒に研究を進めましょう」


 その言葉に、ミチの胸が高鳴る。


 その日の午後、ミチは田中先生と大学の研究室で落ち合った。机の上には、古い暗号文書とミチが持参した丁稚時代の古い帳簿が広げられている。


「さて、久我さん。あなたの経験と、この暗号、そして現代の会計システムをどのように結びつけられるか、一緒に考えてみましょう」


 田中先生の声には、純粋な好奇心が滲んでいた。ミチは深呼吸をして、話し始めた。


「はい。まず、この暗号の数字の並びを見てください。これは、私が丁稚時代に使っていた帳簿の付け方にとても似ているんです」


 ミチは古い帳簿を指さしながら説明を続ける。


「当時、商売の秘密を守るため、数字を特殊な方法で並べていました。例えば、この「5」と「3」の組み合わせは、実際には「8」を意味していたんです」


 田中先生は熱心に聞き入りながら、メモを取っていく。


「なるほど。つまり、単純な足し算ではなく、ある種の暗号化がされていたわけですね」


「そうなんです。そして、面白いことに、この暗号文書にも似たようなパターンが見られるんです」


 ミチは暗号文書の一部を指さした。確かに、似たような数字の組み合わせが見られる。


「驚きました。久我さん、あなたの経験が、何百年も前の暗号を解く鍵になっているんですね」


 田中先生の目が輝いた。ミチも、自分の過去の経験が思いがけない形で役立っていることに、深い感動を覚えた。


「そして、これが現代の会計システムとどう関係するのか……」


 ミチは少し考え込んだ。そして、ふと閃いた。


「そうだ! 現代の会計システムも、ある意味で暗号のようなものかもしれません。数字の背後に隠された真の意味を読み解く必要があるんです」


 田中先生は大きく頷いた。


「その通りです。現代の複雑な会計システムも、数字の奥に隠された真実を見抜く能力が必要なんです。久我さん、あなたの経験と洞察力は、現代の問題を解決する大きな助けになるかもしれません」


 ミチの目に、涙が浮かんだ。長年忘れられていた自分の才能が、こんな形で認められるとは……。


「田中先生、私にも何かできるかもしれないんですね」


「もちろんです。久我さん、一緒に研究を進めましょう。あなたの経験と私の知識を組み合わせれば、きっと新しい発見があるはずです」


 その言葉に、ミチは深く頷いた。彼女の心の中で、過去と現在が美しくつながっていくのを感じた。丁稚時代の苦労、長年の家事と育児、そして今……全てが無駄ではなかったのだ。


 研究室を後にする頃には、日はとっぷりと暮れていた。帰り道、ミチは空を見上げた。夜空に輝く星々のように、彼女の才能も今、新たな輝きを放ち始めていた。


 家に帰り着いたミチは、決意を新たにした。明日こそ、家族に自分の考えを伝えよう。そして、この新しい挑戦について話そう。健一の問題も、きっと解決の糸口が見つかるはず……。


 その夜、ミチは久しぶりに希望に満ちた夢を見た。夢の中で、彼女は若かりし日の自分と手を取り合い、未来への扉を開いていくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る