第25話 おっさん、戦車大隊の指揮をとる

「大丈夫か、シオリちゃん」

「しょ、ショウタさん!」


 俺は素早く彼女を抱き上げると、T34の機銃掃射とともにいったん後退する。


 擦り傷まみれだし、服もボロボロじゃないか。

 自分の回復より人の治癒を優先したんだな。この子らしい。


 それにしても危なかった。

 急いでシオリちゃんの後を追って来たら、まさに危機一髪の状況だった。


「よく頑張ったなシオリちゃん。立てるかい?」


「ふぇ……わ、私。だ、だ、抱っこされてる!? あぅ……頑張りました……私なりに」


 いろいろと混乱しているようだが、大丈夫そうだな。


 俺は彼女をそっと地面に降ろすと、魔物の群れに視線を移す。


 T34の機銃掃射により、やつらの動きもいったん止まったようだ。

 今は互いに睨み合うように相対している。



「な、なんだ!動く鉄の魔道具だと!? 貴様はグリアーチ将軍に葬られたのではないのか!?」


 群れの奥から魔族が出てきた。

 この魔族、たしか副官とか呼ばれてたやつだな。


「ああ、あんたの大将はうちのお姫さまが相手をしているよ」


「バカが、あんな姫1人でなにができるというのだ? それにその小娘勇者の【結界】は破壊した。いくらその鉄の魔道具が強力であろうが、1台では戦局を変えることなど不可能!もはや我が魔王軍第一軍団を止められる者はおらんぞ~ムヒムヒ」


「しょ、ショウタさん……私の【結界】じゃ長くは持たなくて……」



「何言ってるんだシオリちゃん、じゅぶんだ!


 これで――――――間に合ったぞ!!」



「え?……間に合った?」

「そうだ!思ったより召喚に時間がかかってしまった。でもシオリちゃん、聞こえるだろ? この音が」

「えと、ショウタさん何を言って……えっ! これって!?」


 地面が揺れ、周辺の空気が振動しはじめた。

 大地を削るキャタピラ音とエンジン音が幾重にも重なり、その場に響き渡る。


 さあ、お出ましだぜ。



『マスター、T34戦車大隊、集結完了デス。

 なお、一個戦車小隊4両はマイプリンセス(ルーナ)に指揮権限委任を継続中デス』


「ふ、ふあぁ……こ、この戦車全部、ショウタさんが召喚したんですか!?」


「そうだな、正確には一個大隊36両だ。一部4両はルーナにお願いして、グリアーチやケルベロスの相手をしてもらっているよ」


「えと……もう良く分かんないけど凄いです!!」


 うむ、シオリちゃん素直!

 大隊、小隊とか言われてもって話しだしな。


 俺も無我夢中だった。

 T34(戦車)を1両召喚した際に召喚が完了していないことは分かっていたが、残り全てを召喚するにはとんでもない魔力が必要だったからだ。


 数両ならば、特訓やダンジョンで鍛えた魔力により召喚できたが、一個大隊ともなると自力では難しい。

 つまりルーナの谷間(マジックポーチ)に入れている魔石で魔力補充しまくったのだ。

 魔族ガルマやゲルマの分はもちろんのこと、大量の「G」から集めた魔石も全て。



「ぬぅ……鉄の箱が多少増えたごときで、我々魔王軍の敵ではない! 轢き殺してくれる! 第一軍団っ~~~前進だぁ!」


 魔族副官の号令と共に、魔物たちがこちらに向かって進撃を開始する。


 もの凄い数だ、副官魔族がイキリ散らすだけのことはある。


 まずは前進の勢いを止めるか。


「よし、全車両、機銃掃射だ」



了解! 全戦車!―――機関銃発射準備!!イェースチ! フシェムタンカム プーレミョート ゴトーフカ ク アゴニュ



 一個大隊すべての7.62ミリDT機関銃の銃口が、迫りくる魔物たちに標準を合わせた。


「発砲開始!」



機関銃、射撃ぃ―――はじめぇ!!プーレミョート、アゴン ナチャーチェ!!



 ダダダという射撃音と共に機関銃が火を噴き、迫る魔物たちを次々に貫いていく。


「「「「「グギャァアア!」」」」」


 はじめて見るであろう攻撃だからか、叫び声をあげたのち急にバタバタ倒れていく自軍を見て混乱気味になる魔王軍。

 進軍の勢いは明らかに停滞している。



「なにをやっている! 前進だ!すすめ! 前にでろ!」 



 副官が必死に叫ぶも、すでに前線の勢いはない。そりゃそうだ。32個の機関銃に一斉掃射されたら誰でも前に出たくなくなるだろう。


「ぬぅうう……レッドボア突撃部隊をだせぇ!」


 お、なんかイノシシぽい魔物がたくさん出てきた。

 後ろ脚で地面をガツガツと蹴り、鼻息は荒い。突進力は高そうだ。


「レッドボアども!あの鉄の箱を突破しろぉお!

 ――――――いけぇい!突撃ぃいいい!」


「「「「「ブモォオオ!!」」」」」


 荒ぶる声を上げながら、いっせいに駆け出しすレッドボアたち。


 凄まじい速度でこちらへ突進してくる。


「よし、戦車砲で撃破するぞ……ん?どうしたんだ?」



『―――マスター、左から何かが接近中デス! キマス!』



〖ギャワワンンン~~!!〗

「ギヒィイイ~~!!」


 突然俺たちの前に飛び出してきたのは……犬と魔族。


〖もういやだ~~あいつ怖い~~!〗

〖キャヒィイイ!〗

「クソぉお~~ふざけよって! んん? 煙をあげてこちらに来るのは……我が第一軍団ではないか!!」


 ケルベロスと魔族グリアーチじゃないか。



「ギヒギヒギヒ~~ちょうどよいわ! 我が精鋭たちよ、あいつを始末するのじゃああ!

 って―――!? おい……おい!わしの方に来るな! な、なんじゃこいつらぁ―――――ぶぎゃぁああ!!」


 そりゃそうだろ、昂りまくっている突撃中のレッドボアの鼻先に割り込んできたんだ。

 指示なんて伝わるとは思えん。


 イノシシ魔物の体当たりを喰らいまくって宙に吹っ飛ぶ、グリアーチとケルベロス。

 2匹はそのまま後方まで吹っ飛んでいった。



 そして、この2体が追われていたということは……



「魔族と犬~~~待て~ですわ~~!」



 やっぱり……



 横から飛び出してきたのは4両のT34(戦車)と―――


 狂気の笑みを浮かべるお姫さま、ルーナだった。



「あら? イノシシ魔物がいっぱいですわね~~どきなさ~~い!」


 眼前に迫りくるレッドボアの群れに、容赦なく主砲弾と機銃掃射を喰らわせるお姫さま。



「オホホホホ~~これ凄いですわぁああ!! 最高ですわぁああああ!!」



 うわぁノリノリだぁ……やっぱこうなったか。




―――――――――――――――――――


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捕足情報(たいした情報ではないですが)

※一個大隊の編成は下記となっております。


戦車大隊 総数36両(戦車中隊12両×3)

・第1戦車中隊12両(戦車小隊4両×3)

・第2戦車中隊12両(戦車小隊4両×3)

・第3戦車中隊12両(戦車小隊4両×3)



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