第26話 なんですのこれぇええ~~快感(砲撃ぃい!)ですわぁああ!

「さあ~~覚悟なさい!どんどん行きますわよ~~~♪」


 いきなり戦場に現れたルーナは、T34戦車一個小隊を指揮してレッドボアたちを一掃してしまった。


「る、ルーナ。大丈夫だったか?」


 ルーナ1人に魔族グリアーチとケルベロスたちを任せたけど、不安がなかったかといえば嘘になる。

 だが彼女は第一軍団本体を止めることを最優先として、俺とは別行動することを選んだ。


 俺に止めてくれと。そう願った。


 ルーナは王女とはいえ、16歳の女の子だ。


 無理をしていることもあるはず。


 と思っていたが……


「ショウタさまぁああ! なんですのこれぇええ! 快感ですわぁあああ!!」


 大丈夫だったか。


 違う意味で不安になるぞ、これ。


 もう目が凄い事になっている。青い瞳がキラッキラに輝いてらしゃる。

 そういえば前にガトリングガンを委任した時も、こんなキャラになってたっけか。


 日頃ため込んだ何かを一気に噴出しているかのような。


「ギヒィ、ふざけよって!副官ん!!突撃準備じゃあ~~!」

「ムヒィ~了解ですグリアーチ将軍! 第一軍団、総攻撃準備ぃいい!」


 レッドボアに吹っ飛ばされた魔族グリアーチが、青筋たてて怒鳴っている。


 数にものを言わせて蹂躙する気か。

 まあ普通に考えて、敵は人族3人だからな。奴らからすればこんなところで、足踏みしているわけにはいかないだろう。


「ふあぁあ、しょ、ショウタさん……魔物がたくさん前に……」


「ああ、どうやら一気に勝負をかけるらしい」


 ここは戦車大隊を横一列に整列させて、迎え撃つのが良いか。


 ふと横に視線を移すと、シオリちゃんが俺をじっと見ていた。


「そうだ、シオリちゃんにも一個小隊(戦車4両)を委任しておくから」

「へぇ!?わ、私ですかぁあ?……で、出来るかな……」


「大丈夫だ。それにこれだけの車両だ。少し分担してもらった方が俺としても助かる」


「は、はい。そういうことなら。が、頑張ります!」


「ってことだ、頼んだぞ一部委任だ」


『マスター了解デス。一個戦車小隊の指揮権をシオリへ! 

 ―――コマンダーシオリのお望み通り、敵を完膚なきまで粉砕、肉体も精神も存在すらも全てを消滅サセマス』


「そこまでは望んでませんよ!?」


「よし、2人ともコミュニケーションはしっかり取れているようだな」


「今の会話にそんな要素なかったですよ!?」


 うむ、いつものシオリちゃんぽくなってきた。緊張も多少はほぐれたのだろう。

 この声が出れば大丈夫だろう。


「さて、敵の動きは……」


『マスター、敵は隊列を整えるのに手間取っている模様デス」



「ムヒィ~何をやっている!早く陣形を整えろ! こらぁ!そこ暴れるな!」


「グギャギャギャ~~!」

「ズア~~~ズア~~~」

「ギャ~ス」


 なるほど、魔物同士で密集しすぎているからなのか、そこらかしこで勝手に小競り合いをし始めている。あまり統率が取れていない様子だ。

 シオリちゃんの【結界】に阻まれ、T34の機銃掃射を受けて、度重なる進行妨害に苛立っているのだろうか。前線に魔物の数は増えていくが、なんのまとまりもなくグチャグチャだ。



「これは敵の攻撃を待つより、先制攻撃をかました方が良いんじゃないのか」


『はい、マスターの意見に賛成デス。この機を逃す手はナイデショウ』



 よし、そうと決まれば……シオリちゃんに合図を送る。

 コクリと頷くシオリちゃん。緊張した面持ちだが、気合の入った表情である。


 あとはもう一人のお姫さまだが……


「ショウタさまぁああ! いつでもオーケーですわぁあああ!!」


 やだ、もう今にも飛びだしちゃうよこの子。


 でもその気概はこの場面ではとても大事だ。


「―――よし、全車両前進だ!」



戦車大隊ぃい! 全車両前進!!タンクォーヴィ バターリオン ヴペリョード ナチャーチ



 戦車大隊がエンジン全開で一斉に前進を開始した。鋼鉄の車両が大地を砕きながら、戦場を全力疾走していく。

 前方の魔物たちは、突如として迫り来る鉄の塊を見て混乱しはじめた。



「まずは機銃掃射で魔王軍中央を食い破るぞ!」


『了解ですマスター、機関銃、射撃ぃ―――はじめぇ!!プーレミョート、アゴン ナチャーチェ!!



 前進する戦車の機関銃から放たれる弾丸の雨。


「「「「「ギュアァアア!」」」」」」

「ギヒィ~~!クソっ! 鉄の箱めぇえ!貴様らぁ~~さっさと応戦しろぉ!」


 魔族グリアーチの声が飛ぶが、魔物たちは組織的な反撃も出来ずに、バラバラと蹴散らされていく。



 ルーナとシオリちゃんの戦車小隊も前進しながら、魔物の前衛を崩しはじめた。


 前衛を崩した俺たちは、魔物たちの中心部へと進んでいく。


 ここらへんか……


「よし、全車両停止! 戦車砲の準備!」



砲塔旋回! 各個に標準合わせぇ!バシニャ パヴァラチヴァイ、カージィ ナツェルィ 戦車砲発射準備ぃい!タンクーヴァヤ プーシュカ ゴトーフカ



 戦車大隊の全砲塔が一斉にゆっくり旋回をはじめ、発砲の瞬間を待ち構える。エンジンの低い唸りが響き、空気が張り詰めているような感覚だ。


『マスター、全車両各個に敵を捕捉シマシタ。発射準備完了デス』



 さて……はじめるぞ。



「砲撃開始だ! 魔物たちを蹴散らせ!」



戦車大隊ぃ!タンクォーヴィ バターリオン 戦車砲タンクーヴァヤ――――――砲撃はじめぇええプーシュカ アゴン ナチャーチ!!!』



 T34の最大火力である76.2ミリ戦車砲が、一斉に火をふいた。






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